爆誕! ペルーで素麺を奪い合う奇祭

  • 2019.08.11 Sunday
  • 22:17

髪をばっさりと切った。だいぶ伸ばしてから美容院に行ったせいなのか、切り終わるまでにだいぶ時間が掛かった。

 

カットが始まるまでの待ち時間が長かったのもあって、途中から雑誌を読むのにも飽きてしまい、隣のお客さんと別の美容師さんの会話に聞き耳を立てるほうが楽しくなってしまった。出歯亀みたいですみません。

 

いや、だがしかし。会話の端々から聞こえるフレーズが何やら、こういう日記を書いている物好きからするとどうにも聞き捨てならないというか、

 

「素麺をね、奪い合うんですよ。島の中で。参加者はね、島民全員。そんで、奪った素麺を食ったら勝ちなんです」

 

とかいう、パッと聞いただけではよくわからない祭の話をしている。

 

いや、どんな奇祭だ???雑誌を広げたまま、何も聞いてない風を装いながら、私は興味津々で隣の席の会話に思いきり耳を傾けた。

 

「ええ〜、どんなお祭なんですか、それ」

「いや、ホント、そういうお祭があるらしいんですよ。どっかの島で。行ったことは無いですけど、流石に」

 

半信半疑に笑いながら相槌を打つのは客のほうで、謎の奇祭について語るのは美容師である。イッテQにでも紹介されたのかな、と思いながら、私は無言で二人の会話に耳をそばだて続ける。

 

「日本ですか?」

「日本です。え〜と、どこだったかな、確か九州だか沖縄のほうで……で、素麺を食ったら勝ちなんですよ」

「勝ちってどういうことですか?」

「えっ、何だったかな〜……いっぱい素麺食えたら勝ちなんじゃないすか?多分」

 

怪しい。美容師の話の雲行きが凄く怪しい。うろ覚えの匂いがプンプンする。でも何だか、実際にありそうな、けれど細部が微妙に間違っていそうな、実に際どいラインを彷徨いながら話が展開しているような気がひしひしとする。

 

「素麺、投げるんですよ。高いところから、素麺投げる役の人がいて。で、みんな踊ってて。素麺食べるときも、踊りながら食べなきゃいけないんですよ」

「めっちゃ食べにくくないですか?」

「多分ね。で、素麺、乾麺のまま投げられるから、家帰って茹でなきゃ食べられないんですけど、油断すると他の島民に素麺盗まれちゃうんです」

「やば」

「やばいっすよマジで。島って、家の玄関の鍵とか常に開けっ放しじゃないすか。あ、島ってか、俺の田舎がそうだったんですけど」

「私の田舎もですよ」

「ね。そんな感じなんすよ。で、その祭のときだけは、どの家も自由に出入りしてよくて、だから茹でた素麺放ったらかしとかにしといたら、入ってきたやつに食べられちゃうんですよね」

「やばいですね」

「警察とか居ないんじゃないすかね。島なんで。なんかとにかく、そんな感じで、やばいんすよ」

 

なるほど、それはやばいな。そう内心頷いていたところで、自分の担当の美容師さんからシャンプーに案内され、会話の続きに心を残しながら席を離れた。

 

 

 

 

美容院を出た後、少し遠くまで足を伸ばして、久々に妹に会った。前から行ってみたかったペルー料理屋に同行してもらって、互いの近況などを話しているうち、先ほど美容院で耳にした会話をふと思い出し、うろ覚えながら件の奇祭について話題にのぼらせたい気持ちがムクムクと頭をもたげてきた。

 

「さっき、美容院に行ってさ。隣の席のお客さんと美容師さんが、よくわからない祭の話をしてて」

「うん」

「えーと、素麺を投げ合う?祭なんだけど」

「うん???」

「あ、えっと、違ったかな。違うわ。素麺は投げ合わない。投げるんだけど、違うわ。食べるの。踊りながら」

「はあ?」

「でなんか、えーと、素麺は自由に盗んで良いんだって言ってた」

「どういうこと?」

 

この時点で妹は、マジの理解不能の目をしていた。

 

「え、ごめん、なんかわかんなくなってきちゃった。難しいな。どっかの島のお祭で、島民全員で参加するって言ってた」

「島民全員で素麺を盗んで踊りながら投げ合う祭?」

 

私たち二人の脳内で、どこかの島の空中全域を、島民たちの投げ合う盗品の素麺が銃弾のように飛び交う図が過った。地上では、島中の人間たちが素麺を手に踊り狂っている。

 

いや、違う。奇祭は奇祭でも、多分ここまでの奇祭じゃなかった。

 

「えーっ、なんか違うな……。素麺を島の人たち全員で投げ合うんじゃなくて、確か素麺は投げる役の人がいて……や、待って、なんかもっと情報の根本的なところが修正不能になってるんだよな……」

「素麺を何で盗むの?何でそれが祭になるの?」

「何だっけ……素麺を食べると強くなれるんだっけな……」

「食べたら強くなれそうな食べ物、絶対他にあったでしょ」

「確かに素麺弱そう」

「すぐ折れる」

「貧弱なやつだな」

 

修正はおろか、あまつさえ素麺のdisになってきた。

 

「盗んで良いの?てか盗むってどういうこと?そこまでして力が欲しいか?」

「強くなりてえやつしかいないのかな……その島……」

「週刊少年ジャンプの主人公しか住んでない島かよ」

「強くなりてえ……」

「チクショウ……強くなりてぇ……!」

 

脱線に脱線を重ねながら、次々と運ばれてくる料理を二人で頬張る。ペルー料理は世界五大料理の一つと言われるだけあって、どの皿も美味しかった。そして最後に、チチャ・モラーダ(トウモロコシの甘いジュース)を飲みながら、妹は呟いた。

 

「それにしても、世界って広いね。ペルーの変な祭で素麺がそんな使われ方してるなんて、思いも寄らなかった」

 

なるほど、物語というものはこうやって、伝播の過程で変質するのだなと私はこの時しみじみと得心した。

 

最後は特に訂正も何もしなかったので、今頃はきっと妹の口伝で、踊り狂いながら素麺を投げ合うペルーの奇祭が誰かの心の中に爆誕している。

 

 

イマジナリー松潤の教えてくれたカレーうどんが美味しかったのでやっぱり松潤はめちゃくちゃ良い奴

  • 2019.07.29 Monday
  • 00:36

鬼怒川あたりの温泉にでも行きたい、という話を夫としていたはずが、いつの間にか、温泉旅行で泊まった旅館に金田一少年が泊まりに来ていたら、という話になっていた。

 

絶対絶命である。連続殺人の幕開けだ。

 

生きて帰るのは二人ともすぐに諦めた。問題は、何番目の犠牲者となるかだ。君、真っ先に死にそうやんけと私は夫に言った。絶対、「こんなところにはいられない!」とか言って一人で部屋に引きこもって、翌朝死体で発見される。密室殺人の犠牲者だ。

 

「そういう奴は真っ先に死なない。二番目か三番目。真っ先に死ぬのは、旅館の女将さんに酔っ払いながらセクハラしてたのを金田一に咎められて、怒りながらうっかり十五年前に旅館で起きた事件について口走っちゃったオッサン」

「ああ〜」

 

めちゃくちゃ心の底からの「ああ〜」が出た。もはや何だか、さとうふみや絵のセクハラオッサンが赤ら顔で鼻の下を伸ばした姿すら克明に思い浮かぶ。決まりだ。こいつが第一の犠牲者だ。

 

「俺は三番目くらいの犠牲者で、旅行用のカメラで旅館の中の写真を撮ってるうちに、トリックの手掛かりになるようなものを撮影しちゃってそのせいで殺されちゃう役」

「なるほど……」

 

ならば、私は夫が遺したダイイングメッセージを必死で解いているうちに犯人へのヒントに気付いてしまい、そのせいで殺される役が良い。なかなか良い配役だと思ったのだが、夫は自信なさそうに首を横に振った。

 

「え、絶対むり……俺絶対そんなとっさにダイイングメッセージとか思いつかないし……」

「何でよ!ダイイングメッセージ解かせてよ!何のために普段あんなにゲームやってるの!あんなに時間かけてダンガンロンパV3をクリアしたのはこのときのためじゃなかったの!?」

 

このためではないと思う。そう言われたので、せやなと素直に頷いた。

 

このブログの記事を毎回読んでくださっている方はお気付きのことと思うが、我々は二人で会話していると無限に脱線していく傾向がある。もともと何を話していたかすら忘れて本題に戻って来れないときもあり、大いによろしくない。

 

最近、二人で京都に行ったときも脱線が酷かった。夫には私の仕事に付き合ってもらった形なのだが、せっかくなら観光もしたい、と京都に向かう途中でガイドブックを買うことになった。

 

最近は本当に便利だ。本屋に寄れなくても、電子書籍ですぐに本が買える。Kindleのストアを検索すると、とある女性誌のバックナンバーが夏の京都の飲食店を特集しているのを見つけた。しかも表紙が嵐の松潤だ。これは買いだろう。

 

「お! これにしよう、表紙が松潤だし」

「え、何で? 雑誌よりガイドブックのが良くない? それなら飲食店以外も載ってるし」

「えっ、でもこれ、表紙が松潤だよ?」

「えっ」

「えっ……?」

 

そのとき、私はようやく気がついた。夫は私と違って、別にそこまで松潤のことが好きではないことに。

 

というか、私はこのときこの瞬間まで、地球上の全人類は老いも若いも男も女も、すべからく松潤のことを好いているものだと思い込んで生きていた。だから、夫の松潤に対するうっすーい反応が衝撃的過ぎた。その思いを新幹線の中で全てぶつけた。だって松潤だぜ!? 

 

「絶対良い奴だぜ!? 会社に遅刻しそうなときでも横断歩道でおばあちゃんの背負ってる重い荷物とか運んでくれるぜ!?」

「会社……?」

「ホントに良い奴なんだって! 絶対! 君が高校生のとき、学校で誰も話せる人がいなくて机でラノベばっか読んでたけど、同じクラスの松潤だけは二人きりのとき気さくに話しかけてきてくれたじゃん!?」

「学校……?」

 

熱弁する私に、夫は戸惑いながらも静かに首を横に振った。

 

「でも……俺、松潤とは多分仲良くなれないよ……あいつ、話合わせてくれようとしてるのはわかるんだけどさ。『漫画好きなの? 俺もアニメとか見るよ!ジブリとかワンピースとか!』って言ってきたんだもん……マジで無理……」

 

いや君、昔からワンピース大好きやんけ。ジブリも金曜ロードショウでやるときめっちゃ楽しみに見とるやんけ。

 

そう突っ込もうとして、ハッと気が付いた。こいつ、なりきってやがる。根明でコミュ力高い人気者のイケメン同級生についていけなくて会話を拒否してしまう、友達のいない根暗オタクの高校生に完全になりきってやがる。

 

アラサー男性の役作りの的確さに慄くあまり、私は思わず名作『ガラスの仮面』を想起していた。このときの私はほぼほぼ、素人であるはずの北島マヤにまばゆいばかりの演技の才能を見出し、恐怖する姫川亜弓だった。

 

私は混乱した。紅天女候補を目指せば良いのか、松潤としてクラスメートと会話を楽しめば良いのか、完全にわからなくなっていた。しかし隣の北島マヤ(※アラサー男性)には一切の邪念無く、ただひたすらに根暗オタク高校生になりきってやろう、そういう真摯な凄みが感じられた。

 

負けられない。そう決意した。新幹線の中で我々二人の席にだけ、異様な緊張感が張り詰めていた。なお、この時点で京都の観光のことは、二人の頭から完全に抜け落ちていた。

 

 

 

 

そのあと普通に昼寝して、起きたらもう京都駅に着く三十分前だった。

 

京都で何をするかは白紙のままだった。「やべっ」と慌てて松潤が表紙の女性誌をKindleで買って、急ぎ熟読する。ランチがおすすめというカレーうどんの店が美味しそうだったので、とりあえずそこに行ってみることにした。(注 : 松潤おすすめのお店というわけではない)

 

混んでいたが、二十分ほど待って入れた。色々メニューがあるようだったが、それぞれ、オーソドックスなカレーうどんとカレーつけうどんを頼んだ。

 

これが両方とも、素晴らしく美味しかった。麺は胚芽入りでモチモチしている。鰹と豆乳、好きなほうの出汁を選べるキーマカレーが美味しい。セットで出てくる、西京みそ漬けの卵黄をのせた麦ご飯はそれ単品でも美味しいが、残ったカレーをかけるともうたまらない味となる。

 

我々は膨れた腹をさすりながら、口々に松潤を褒め称えた。

 

「さすが、松潤おすすめのお店(注 : 松潤おすすめのお店ではない)」

「なんか悪いことしちゃったな。こんな美味しいお店教えてくれるんなら、もっと話に乗ってやれば良かった」

「今度は自分から話しかけなよ」

「うん、そうする。ワンピースの映画誘うわ。二人で見に行く」

 

松潤はやっぱり良い奴だった。そう結論して満足する我々の脳裏で、「今度はこの店三人で来ようぜ!」と気さくに笑いかける、イマジナリー松潤の白い歯が輝いた。

 

お題に回答してみる。

  • 2019.05.27 Monday
  • 01:35

ブログのネタが欲しくて、ツイッターで募集してみた。ありがたいことにいくつかお題を寄せてもらえた。今回はその中から、簡単に答えられそうなものに回答してみる。

 

 

 

Q.アンダーバーとダブルクォーテーションの能力を教えてください!

 

A.思いつかないんですよね……。

 

アンダーバーはなんか、何かと何かを繋ぎ合わせて別の力を生み出す能力、とか考えたんですけど、熱血系のキャラの戦い方にしては地味かな〜ってところが気になって、自分的にはイマイチなんですよ。

 

ダブルクォーテーションはマジで思いつかないっす。なんか良いのあったら教えてください。カッコいいのおねしゃす。

 

 

 

Q.最近見た雲の中で一番おいしそうだったもの

 

A.雲!?普段あんま見ないかもしれない!

 

慌てて美味しそうな雲を探して空を見たら、ひらがなの「く」みたいな形の細長い雲があったのがなんか面白くてムフフフフって一人で笑ってました。平和で良いですね。

 

 

 

Q.ニワトリ愛

 

A.思いつく限り挙げてみた。

 

・美味い
・安い
・可愛い
・高級なやつとスーパーで売ってる安いやつの味の差がそんなにわからんのでお得感がある(※貧乏舌の意見)
・「食いてえ〜!」って思ったとき、コンビニに入ればすぐ摂取できる。ホットスナックのからあげとかで。
・美味い
・とにかく美味い
・美味いんだよな……。

 

愛っつうか……欲しか無いかもしれないな……。

 

 

 

Q.プリキュアと戦う悪の幹部のほうになりたい38才男児なのですが、40才になるまでに夢を実現するにはまず何をするべきでしょうか。

 

A.ねえ、この質問だけなんか濃くない???

 

悪の幹部になる方法……わからねえ……ごめん……。私とあなたがすごく良い友達になれそうとか、そういうことしか私にはわからねえ……。

 

あと自分、腐ってもプリキュアなんで……。悪の道に走ろうとしてる人が目の前にいるのに、放ってなんておけないよ。

 

この世界には、悲しいこともいっぱいある。だけど、希望を捨てないで。そうすればいつか、輝く未来がやってくるはずだから!!

 

(突如、虹色に輝き出すキュア八海山)

 

(キュア八海山から溢れ出た光が、38歳男児を優しく包む。するとどこからか、変身バンクの音楽が流れだす)

 

(音楽が収まった後、そこにはきらきらと紅潮した顔で呆然と、「私が……プリキュアに……?」と呟く、衣装に身を包んですっかりプリキュアへとみちがえた、38歳男児の姿があった……。)

 

 


………。

 

 


地獄か???

 

 

 

ちなみにお題を募集するのに使ったサービスはこちらhttps://odaibako.net/u/chabobunkoです。良かったらなんか気軽に構ってください。

アンダーバー&ダブルクォーテーション

  • 2019.05.25 Saturday
  • 16:51

叫んだときに一番カッコいい記号の名前は、「アンダーバー」だと思っている。漫画とかアニメの必殺技っぽい。ぜひポーズを決めながら、ヒーローの必殺技のように、高らかに大声で叫びたい。必殺!アンダー・バー!!

 

そんな話を夫にしたら、「ダサくない?」と一言で斬って捨てられた。いささかムッとした。じゃあ、どんな記号がカッコいいのか言ってみろってんですよ!啖呵を切ると、夫は少し思案してから、ぽつりと呟いた。

 

「ダブルクォーテーション」

 

思わず口に手を当て仰け反りながら、ッヒィ〜〜〜!!!と情けない悲鳴をあげてしまった。カッコいい。これは確かにカッコいい。負けた、と思った。今までカッコいいと思っていたアンダーバーが、ダブルクォーテーションに比べると世代一つ分くらいはダサく見える。オモチャ売り場で子供たちが群がり、品薄状態のダブルクォーテーションの隣で、半額セールの在庫が山積みとなった寂しいアンダーバーの姿が瞬時に脳裏をよぎった。

 

アスタリスクもカッコいい、と夫は続ける。だがしかし、この意見には少しばかり反発させてもらった。アスタリスクは逆にあまりにカッコ良すぎると言うか、アスタリスクがカッコいいことは既に万人の知るところである。目新しさに欠ける。そう指摘すると、「能力による」と夫はさらに反論した。

 

「アスタリスクは……その魂に星の力を宿せし者の能力……。だからなんか……すごい強い星の力とかが……使える!!」

 

魂に宿りし星の力。こんなカッコいい響きに心ときめかない小学生がいるだろうか。目新しさに欠けようがなんだろうが、やはりカッコいいものはカッコいいのだ。いや、小学生ではなく、もうアラサーなんですけども。

 

パソコンのキーで言ったら、デリートもカッコいい、とさらに夫は続ける。私は思わずもう一度口元を押さえた。デリートの能力をその身に宿せし者の悲劇的な運命に、一瞬で思いを馳せたからである。

 

彼はこの世の万物全てを指先一つで消去、“デリート”してしまう、最強の能力者である。絶対、「俺には感情が無い……この能力(ちから)で、自分の心も“デリート”したんだ」とか言う。間違いなく敵キャラだ。能力を駆使し、冷徹な殺戮を繰り返す彼には、アンダーバーとダブルクォーテーションのバディも随分と苦しめられた。

 

しかし戦いの中で、デリートに変化が訪れる。彼には昔、恋人がいた。しかし彼は自分の能力を制御できなかったことで、その恋人をも“デリート”してしまう。デリートが感情を失ったのはその一件からだった。つまり彼は、自分の心を“デリート”してしまったわけではなく、事件のショックから心を閉ざしていただけだったのだ。

 

そのことに気づいたデリートが選んだのは、戦いを止め、今度は正真正銘、自分自身を“デリート”することだった。ボロボロの体で必死に制止するアンダーバーに、無表情だったデリートは初めて微笑みを浮かべて見せた。

 

「あいつと同じところに行かせてくれ……」

 

その表情はとても穏やかだった。それでもなお彼を止めようと、力を振り絞って手を伸ばすアンダーバーを、今度はダブルクォーテーションが必死に押し留める。わずかに届かなかったアンダーバーの指先で、デリートの姿はフッと掻き消えた。

 

 

後日、とある都内の霊園に訪れたアンダーバーは、その片隅で意外な人物を見つけた。

 

「……ダブルクォーテーション」

 

ぽつりとその名を呟く。ダブルクォーテーションは振り向き、「あなたが来るとは思いませんでした」と淡々と呟いた。

 

「……こっちのセリフだ、それは」

 

不貞腐れた返事をしてしまった気まずさを誤魔化しながら、アンダーバーはダブルクォーテーションの隣に並び、一緒にしゃがんで手を合わせた。

 

墓石に刻まれた名前の内には、デリートの名も並んでいる。

 

「……消えちまったからな、あいつ。居ないところで拝まれても、何とも思わねえかもしれないが」

「良いんじゃないですか?こういうのは、残った側が気持ちの整理のためにやるようなものですから」

 

残った側。それは即ち、自分たちのことか。そう考えると確かに、この霊園に自然と足が向いてしまったのも、デリートのためというよりは自分のためであるような気がする。

 

ちらり、とアンダーバーは、隣で目を閉じるダブルクォーテーションの端正な横顔を盗み見る。つまりこいつもまだ、気持ちの整理が付いてないってことなのか。

 

デリートを助けてやれなかった。その悔しさをつい、ダブルクォーテーションに八つ当たりでぶつけてしまった。どうしてあのとき、俺を止めたんだ!デリートが消えた後、ついさっきまで彼が立っていた地面を殴りながら、そう言って悔し涙を流すアンダーバーから、ダブルクォーテーションはただ黙って目をそらすだった。それから喧嘩別れみたいになって、ダブルクォーテーションとは暫く顔を合わせていない。

 

普段から、ダブルクォーテーションとは喧嘩ばかりだった。成り行きでバディを組むことになったものの、互いに不満たらたらだった。一回りも世代が違えば、性格も違い過ぎた。年上で情に脆く、熱血漢のアンダーバーをダブルクォーテーションは鬱陶しがったし、年下で妙に冷めたところのあるダブルクォーテーションの生意気さを、アンダーバーは「ヒーローには向かない」と頑として認めなかった。

 

二人の言い合いはいつも激しかった。アンダーバーはダブルクォーテーションに対して、「お前には血が通ってない」なんて、それこそ冷たい物言いをすることさえあった。でも、だからこそあの日……デリートが消えたあのときには、ダブルクォーテーションに対して突っかかるような真似をしてはいけなかった。いつもならすぐに皮肉な憎まれ口で言い返してくるダブルクォーテーションが、じっと口を噤んだままだった。そこでようやく、この若者も自分を責めているのだと、鈍感なアンダーバーは自分の大人げなさに気付いたのだった。

 

「……悪かったよ、あのとき」

 

言いあぐねて曖昧な表現になったが、同じことに思いを馳せていたのだろうダブルクォーテーションには、それで通じた。ダブルクォーテーションは眼鏡の縁を指で軽く押し上げながら、「こっちこそ」と口を開いた。

 

「すみませんでした。あのとき僕があなたを止めていなかったら、もしかしたら、デリートは助かって……」

「いや、謝らないでくれ。あのときはお前が正しかった。もしお前が止めてくれなかったら、あいつの能力に巻き込まれて俺も“デリート”されていただろう。今頃は俺も墓の下だ。だから……ありがとうな、ダブルクォーテーション」

 

照れ隠しに、帽子を目深に被りなおしながら頭を下げる。もっと早く、自分から謝るべきだった。アンダーバーはもう一度、自分の大人げなさを恥じた。大人げない、なんて、ダブルクォーテーションにいつも喧嘩のたびに言われていたはずなのに。今さらのように身に沁みた。

 

「今度からは、冷静になるよ。お前みたいに」

「いえ……そんな必要は、無いんじゃないですか」

「?」

「あなたの、良いところだと思いますから。その、熱血で、情に厚くて、向こう見ずなところ。まあ、鬱陶しいときも多いですけど……」

「余計なお世話だ」

 

思わずいつものようにムッとする。ダブルクォーテーションは、至極真面目な顔で続けた。

 

「でも、心を失くすのは怖いことだって、彼が……デリートが教えてくれましたから。僕の隣には、あなたみたいな人が居てくれると、きっとちょうど良いんです」

 

アンダーバーはきょとんと目を丸くした後、ダブルクォーテーションに向かってニッと笑ってみせた。ちょうど同じことを考えていた。もしかしたら自分たちは、良い相棒になれるのかもな、と。

 

ダブルクォーテーションも、珍しく唇に笑みを浮かべていた。「行くか」「ええ」声を掛け合って立ち上がる。次なる強敵が、自分たちヒーローを待っている。

 

二人が背を向けて後にした墓石。細く二本の線香の煙が立ち昇るその向こうには、デリートの名の隣に並んで、かつての彼の恋人の名も刻まれていた……。

 

 

 

 

 

 

あの。

 

合ってます?こんなんで。

 

見たことないけどこんな感じの話かなって、何となく勝手に思ってるんですけど。タイガー&バニー。

 

 

 

魔性のサッ●ロポテト

  • 2019.05.17 Friday
  • 19:17

家のトイレに入ったら、床の上に、カルビーのサッポロポテトの空き袋(言わずもがな食べ終わった後の)が放置されていた。見つけた瞬間、思わず固まった。

 

自分ではない。この家は私と夫の二人暮らしである。となれば、犯人は一人しか居ないではないか。

 

あの人、トイレでスナック菓子食ったの?マジ?

 

「便所飯」という言葉がある。友人の居ない、もしくは一人が好きな学生が、人目を避けてトイレの個室にこもり弁当を食べる行為を指す。

 

故に「便所飯」という言葉には何となく物悲しさが漂うが、対して「便所サッポロポテト」はどうだ。もはや欠片の悲壮感も無い。本来ならば孤独をかこつはずのトイレで飯を食うという行為で、あえてサッポロポテトを食らう。別にリビングで談笑しながら、くつろぎながら食べて良いはずのサッポロポテトを、あえて孤独にトイレで食す。その行為には、もはや堂々とした威厳すら漂うではないか。孤独を恐れずむしろ味わい尽くす、王者の風格だ。

 

いや、やっぱただ単に不衛生だから止めてくれや。

 

そんなことを思いながら、でも心のどこかでは、流石にトイレでサッポロポテトを食べたわけではないだろうと思っていた。トイレの床に袋が転がっていたのは、何か他に理由があるのだろう。ゴミをまとめようとして、トイレにまでゴミを持ってきちゃったとか、何かそんな感じで。だってトイレでサッポロポテトを食べるとか、流石に意味わかんないし。

 

聞いてみた。ものすごく自然にあっさりと、「うん、食べたよ」と頷かれた。

 

何て???

 

こちらの目が点になる。食べたの?マジで?もう一度問うと、夫はまたもごくごくあっさりも、「うん、食べたよ」と全く同じように頷いた。

 

「食べ……え?マジで?トイレでサッポロポテト食べたの?ほんとに?え?」

「うん、食べたよ。俺、トイレでサッポロポテトを食べたよ」

 

私は混乱した。想定していた答えと、相手の反応がまるで違う。

 

正直言って、夫が本当にトイレでサッポロポテトを食べたとは思いもしていなかった。必ず、他の理由があるのだと思っていた。

 

だから、私に勘違いをされて慌てふためいて、「違うよ〜!」などと必死に言い訳をする夫を、からかって遊んでやろう。そういう腹づもりだったのだ。ただただ単に、新しいおもちゃを見つけた子どものような、そういう気持ちだったのだ。

 

「うん、食べたよ」

 

だが夫はもう一度、至って普通の顔で、平然と頷きながらレコーダーのように先ほどと同じ言葉を繰り返した。いや、この人サイコパスか?

 

や、でも。私は立ち止まって考え直す。もしかして、夫にとってはそれが普通なのか。普通と言わずとも何か、それまで過ごして来た地方の習わしというか、「五月の上旬にトイレでサッポロポテトを食べると一年間健康に過ごせる」とか、そういう独自の風習がある地域で暮らしてきた可能性もある。あるか?マジで?いや、わからないけど、無いではない。無いではないなら、あるではないか!

 

「何で、トイレでサッポロポテトを食べたの?」

 

ほとんど文化人類学者のような気持ちで、私は夫に問いかける。夫はぼんやりと首を傾げながら、訥々と答えた。

 

「んー、なんか、トイレでサッポロポテトを食べたことって、今まで無いなあ……ってふと思って」

「そりゃあ無いと思うよ」

 

思わず声に出た。夫は事も無げに頷く。

 

「うん、だから、食べてみようかなって思って」

「???」

「食べながらトイレに入って、便座に腰掛けたまま、食べ終わったんだけど。そしたら、袋だけ忘れて置いてきちゃったみたい。ごめんね」

「??????」

 

夫はバツが悪そうに、少しだけしょんぼりしている。後片付けをちゃんとしなかったのを今になって気にしているらしいが、あいにくこちらはそんなこと気にもならないくらい、頭の中が疑問符でいっぱいだった。

 

やべえ、家族が何言ってるのか全然わかんねえ。

 

こちらの混乱にはお構いなしに、夫はもうこの話題は終わったとばかりにのんびりとコーヒー牛乳を飲んでいた。誤解されるといけないから一応、強調して伝えておきたいのだが、普段の夫は非常に良識的な人である。マイペースでいやにキャピキャピしたところはあるものの、話の受け答えもしっかりしている。むしろ一般的に言うと非常識な性格をしているのは私のほうで、一緒に暮らしていると本当に助けられることばかりだ。

 

それなのに、今のこの状況は何だ。何故こんなにも会話が成り立たない。サッポロポテトか。サッポロポテトのせいなのか。あの美味しさが、魔性のようにこの人を駆り立て、奇行に走らせたのか。

 

「いやあ、でも」

 

サッポロポテトの知られざる魔力におののき、打ち震えることしかできない私に、夫はのんびりと笑ってこう言った。

 

「トイレでサッポロポテトを食べるのって、なんか汚いねえ。もう二度としないと思うよ」

「当たり前だわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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