名探偵でも多分解けない

  • 2020.01.03 Friday
  • 01:02

身の回りにいる男性が、なんだか皆揃いも揃って一般平均よりもキャピキャピしている気がする。

 

筆頭は、一昨年結婚した夫である。彼は小さくてフワフワした小動物をこよなく愛しており、道端でトイプードルやチワワを見かけるとワントーン声が高くなる。好きな映画は「アナと雪の女王」。ここ数年の好物はチーズタッカルビとタピオカで、タピオカに関してはそのブームが去りゆく気配を心の底から本気で惜しんでいる。

 

並べ立てると彼のプロフィールは、まるで女子高生になってしまう。いや、タピオカは私も好きだし、ブームが去ったら寂しい気持ちも非常によく分かるのだが。個人的にとにかくモチモチした食べ物が好きなので、もしもタピオカの流行りが廃れるのならせめて、次もわらび餅やういろうなどのモチモチが一世を風靡して、世の中を一層モチモチさせてほしい。

 

そんな感じで夫は度を超えてキャピキャピしているが、私の実家の父親も桁外れにキャピキャピしている。最近だと、父の日に嵐のCDをねだられたのが記憶に新しい。その際は「限定版だからね!」と何度も念押しされたし、LINEの文章の後ろには目がハートの絵文字がついていた。

 

以前、実家へ遊びに帰る約束をしたときに、駅まで迎えに来てくれた父親が風邪を引いていたことがあった。それならそれで看病のつもりで来たのに、何故教えてくれなかったんだと尋ねたら、

 

「だって……具合いが悪いって言ったら、会いに来てくれないと思ったんだもん」

 

と、拗ねたように言われた。もじもじと口を尖らせる六十手前のおじさん(肉親)が発する妙にラブリーな空気に気圧されて、「いや、あなたは重ための彼女か?」の一言が、どうしても言えなかった。

 

だがしかしである。娘の卒業式に黄金のスーツを着てきたり、娘に何故か「タクミくんシリーズ」(※原作はBL小説)のDVDを買い与えたりといった、我が父が今までに為してきた数々の奇行を「キャピキャピ」などという言葉で括ってしまって良いのか? という点はかなり訝しい。

 

一言で言えば変人である。突拍子もなければ理由もよくわからない言動が多い。つい先日も、こんなことがあった。

 

「○○君(私の夫の名前)の写真を送ってくれないかな?」

 

突然、父親から私に送られてきたLINEである。この時点で何故そんなお願いをされるのかよくわからなかったし、長年一緒に居た親子の勘で、私はこの時点で既にバチバチに嫌な気配を感じ取っていた。

 

何のためにと疑いつつ、適当にその場に居合わせた夫の姿を、適当に写真に収めて送る。すると、「もっとカッコイイ写真が良い」と即座に返事がきた。

 

「○○君は笑顔のほうがカッコイイ。角度も斜めからのほうが良いと思う」

 

いや、知らんよ。

 

何で六十間近のオッサンから、三十代のオッサンの顔面についてのこだわりを事細かにリクエストされねばならないんだ。

 

モヤモヤした気持ちになりつつ、もう一度夫に写真をお願いする。送る。「眼鏡を外して」とまたもリテイクがくる。何やねん! 三度目のリテイクで、ようやく合格がもらえた。夫は不思議そうな顔で大人しく、七五三のように写真を撮られていた。

 

そして数日後、小さな段ボール箱が宅配便で我が家に届いた。送り主は父親で、宛名は夫になっていた。

 

夫は何も知らず、「ええっ、何だろ〜!?」と嬉しそうに、無邪気な様子で箱の開封に勤しんでいる。私はこのとき例の嫌な予感が最高潮に達していたが、何も出来ずに夫の手元を薄目で見守るのみだった。

 

ところで。

 

唐突に話は変わるが、皆さんは京極夏彦の「魍魎の匣」という小説をご存知でしょうか。ご存知でしょうかと投げ掛けるには余りにも有名な、ミステリ小説の金字塔とも言うべき傑作である。

 

ミステリであるのでネタバレは避けるが、四角い匣(はこ)とその隙間を埋めることに取り憑かれたとある男が、生きた少女の胸から上がぴったり入った匣を、帰省の列車の中で偶然同席した男に見せられ、すっかり魅了されてしまう……という筋の冒頭の文章が、非常に印象的で有名である。

 

これは「魍魎の匣」作中の登場人物が書いた小説、つまり作中作でもあるわけだが、現実にはそんな状態で生きているはずのない匣の中の娘が、「ほう」と鈴の鳴るような声で笑う描写など、初めて読んだときには本当にゾクゾクし、何だか凄い本を読み始めてしまったぞと中学生ながらに大興奮させられた。まず間違いなく、思春期に出会って人生を変えてくれた本のうちの一冊である。

 

そして話はまたも唐突に元に戻るが、我が家に届いた父親から夫への匣の中には、夫の顔がぴったりと収まっていた。

 

開けた瞬間、沈黙が我が家の居間を支配した。夫は匣の中に収まった自分の顔面を見て固まっていたし、私は件の「魍魎の匣」冒頭の文章が、(祖母が亡くなったので、急ぎ帰省した……)とド頭から自然に脳内再生されるのを止められないでいた。

 

「あ、ケーキだこれ」

 

私より少し早く冷静さを取り戻した夫が、その正体に気付く。なるほど。先日父親に頼まれて送った写真が、ホールケーキの上にプリントされているのだ。流行りの食べられるインクというやつで印刷されているのだろう。よく見ればロウソクや「HAPPY BIRTHDAY!」と書かれたチョコレートのプレートなどが同封されており、これは父親から夫へのバースデーケーキなのだとそこでようやく分かった。

 

「とりあえず……写真撮る?」

 

互いに怯みながら、ケーキ単品の写真を撮ったり同じ表情でケーキと並んで写ったり、割とはしゃぎつつ一通りの撮影を行った。そして一息ついてからどちらともなく、まあせっかくだし一切れ食べるか……という流れになった。

 

「……固っ」

 

ケーキの表面を覆う、写真が印刷されたチョコレートのような部分が意外と硬くて、しかも包丁の切れ味が鈍いのかなかなか上手く歯が立たない。「あれっ」「おかしいな?」「くそっ…!」などとブツブツ呟きながら、私は何度も夫の顔面(※ケーキ)に包丁を突き立てたり、刺したり抉ったりした。何度も、何度も。

 

「……。」

 

気付けば夫が怯えたような顔でこちらを見ている。いや、こっちもこの光景が傍目から見てヤバすぎることはわかってるんで、そんな顔しないでくれや。

 

何とか切り分けてケーキ本体にありつけたところで、ちょうど父からLINEが来た。「ケーキ届いた?」と聞かれたので、今ちょうど食べているところだと返す。

 

「奮発して美味しいやつにしたから、味わって食べてね!」

 

父の言葉通り、ケーキはやたらと美味しかった。なんか知らんがちょっとムカついた。

 

まあ、どうして夫の顔面が印刷されたケーキを本人に送ろうと思ったのかはよくわからないが、父なりにこの人を可愛がっているのは普段接していてとてもよくわかる。うちは子どもが二人とも娘だったので、息子が出来たようで可愛いのだろう。変人だが、基本的に悪い人ではないのだ。変人なので、すること為すことよくわからないことばかりだが。ええ、本当に、よくわからない人ではあるのだが。

 

「ところでさ」

 

口の中のケーキをゆっくり味わってから、夫がぽつりと呟く。

 

「俺、今日、誕生日でも何でもないんだけど。お父さん、何で誕生日ケーキ送ってきたんだろ?」

「そこなんですよね」

 

私は神妙に頷いた。そこばっかりはちょっと、よくわからないんですよね。ええ、あの、ごめんなさい。本当によくわからない人で。四半世紀は一緒にいるんですけど、娘の私にも全然わからないんですよ。迷宮入りっていうか。私にわかるのは「魍魎の匣」はめちゃくちゃ面白い小説で全人類読むべきってことだけなんで、あの、未読の方はぜひ読んでみてくださいね。オススメです。

 

ペルーで素麺を奪い合う

  • 2019.08.11 Sunday
  • 22:17

髪をばっさりと切った。だいぶ伸ばしてから美容院に行ったせいなのか、切り終わるまでにだいぶ時間が掛かった。

 

カットが始まるまでの待ち時間が長かったのもあって、途中から雑誌を読むのにも飽きてしまい、隣のお客さんと別の美容師さんの会話に聞き耳を立てるほうが楽しくなってしまった。出歯亀みたいですみません。

 

いや、だがしかし。会話の端々から聞こえるフレーズが何やら、こういう日記を書いている物好きからするとどうにも聞き捨てならないというか、

 

「素麺をね、奪い合うんですよ。島の中で。参加者はね、島民全員。そんで、奪った素麺を食ったら勝ちなんです」

 

とかいう、パッと聞いただけではよくわからない祭の話をしている。

 

いや、どんな奇祭だ???雑誌を広げたまま、何も聞いてない風を装いながら、私は興味津々で隣の席の会話に思いきり耳を傾けた。

 

「ええ〜、どんなお祭なんですか、それ」

「いや、ホント、そういうお祭があるらしいんですよ。どっかの島で。行ったことは無いですけど、流石に」

 

半信半疑に笑いながら相槌を打つのは客のほうで、謎の奇祭について語るのは美容師である。イッテQにでも紹介されたのかな、と思いながら、私は無言で二人の会話に耳をそばだて続ける。

 

「日本ですか?」

「日本です。え〜と、どこだったかな、確か九州だか沖縄のほうで……で、素麺を食ったら勝ちなんですよ」

「勝ちってどういうことですか?」

「えっ、何だったかな〜……いっぱい素麺食えたら勝ちなんじゃないすか?多分」

 

怪しい。美容師の話の雲行きが凄く怪しい。うろ覚えの匂いがプンプンする。でも何だか、実際にありそうな、けれど細部が微妙に間違っていそうな、実に際どいラインを彷徨いながら話が展開しているような気がひしひしとする。

 

「素麺、投げるんですよ。高いところから、素麺投げる役の人がいて。で、みんな踊ってて。素麺食べるときも、踊りながら食べなきゃいけないんですよ」

「めっちゃ食べにくくないですか?」

「多分ね。で、素麺、乾麺のまま投げられるから、家帰って茹でなきゃ食べられないんですけど、油断すると他の島民に素麺盗まれちゃうんです」

「やば」

「やばいっすよマジで。島って、家の玄関の鍵とか常に開けっ放しじゃないすか。あ、島ってか、俺の田舎がそうだったんですけど」

「私の田舎もですよ」

「ね。そんな感じなんすよ。で、その祭のときだけは、どの家も自由に出入りしてよくて、だから茹でた素麺放ったらかしとかにしといたら、入ってきたやつに食べられちゃうんですよね」

「やばいですね」

「警察とか居ないんじゃないすかね。島なんで。なんかとにかく、そんな感じで、やばいんすよ」

 

なるほど、それはやばいな。そう内心頷いていたところで、自分の担当の美容師さんからシャンプーに案内され、会話の続きに心を残しながら席を離れた。

 

 

 

 

美容院を出た後、少し遠くまで足を伸ばして、久々に妹に会った。前から行ってみたかったペルー料理屋に同行してもらって、互いの近況などを話しているうち、先ほど美容院で耳にした会話をふと思い出し、うろ覚えながら件の奇祭について話題にのぼらせたい気持ちがムクムクと頭をもたげてきた。

 

「さっき、美容院に行ってさ。隣の席のお客さんと美容師さんが、よくわからない祭の話をしてて」

「うん」

「えーと、素麺を投げ合う?祭なんだけど」

「うん???」

「あ、えっと、違ったかな。違うわ。素麺は投げ合わない。投げるんだけど、違うわ。食べるの。踊りながら」

「はあ?」

「でなんか、えーと、素麺は自由に盗んで良いんだって言ってた」

「どういうこと?」

 

この時点で妹は、マジの理解不能の目をしていた。

 

「え、ごめん、なんかわかんなくなってきちゃった。難しいな。どっかの島のお祭で、島民全員で参加するって言ってた」

「島民全員で素麺を盗んで踊りながら投げ合う祭?」

 

私たち二人の脳内で、どこかの島の空中全域を、島民たちの投げ合う盗品の素麺が銃弾のように飛び交う図が過った。地上では、島中の人間たちが素麺を手に踊り狂っている。

 

いや、違う。奇祭は奇祭でも、多分ここまでの奇祭じゃなかった。

 

「えーっ、なんか違うな……。素麺を島の人たち全員で投げ合うんじゃなくて、確か素麺は投げる役の人がいて……や、待って、なんかもっと情報の根本的なところが修正不能になってるんだよな……」

「素麺を何で盗むの?何でそれが祭になるの?」

「何だっけ……素麺を食べると強くなれるんだっけな……」

「食べたら強くなれそうな食べ物、絶対他にあったでしょ」

「確かに素麺弱そう」

「すぐ折れる」

「貧弱なやつだな」

 

修正はおろか、あまつさえ素麺のdisになってきた。

 

「盗んで良いの?てか盗むってどういうこと?そこまでして力が欲しいか?」

「強くなりてえやつしかいないのかな……その島……」

「週刊少年ジャンプの主人公しか住んでない島かよ」

「強くなりてえ……」

「チクショウ……強くなりてぇ……!」

 

脱線に脱線を重ねながら、次々と運ばれてくる料理を二人で頬張る。ペルー料理は世界五大料理の一つと言われるだけあって、どの皿も美味しかった。そして最後に、チチャ・モラーダ(トウモロコシの甘いジュース)を飲みながら、妹は呟いた。

 

「それにしても、世界って広いね。ペルーの変な祭で素麺がそんな使われ方してるなんて、思いも寄らなかった」

 

なるほど、物語というものはこうやって、伝播の過程で変質するのだなと私はこの時しみじみと得心した。

 

最後は特に訂正も何もしなかったので、今頃はきっと妹の口伝で、踊り狂いながら素麺を投げ合うペルーの奇祭が誰かの心の中に爆誕している。

 

 

イマジナリー松潤の教えてくれたカレーうどんが美味しかったのでやっぱり松潤はめちゃくちゃ良い奴

  • 2019.07.29 Monday
  • 00:36

鬼怒川あたりの温泉にでも行きたい、という話を夫としていたはずが、いつの間にか、温泉旅行で泊まった旅館に金田一少年が泊まりに来ていたら、という話になっていた。

 

絶対絶命である。連続殺人の幕開けだ。

 

生きて帰るのは二人ともすぐに諦めた。問題は、何番目の犠牲者となるかだ。君、真っ先に死にそうやんけと私は夫に言った。絶対、「こんなところにはいられない!」とか言って一人で部屋に引きこもって、翌朝死体で発見される。密室殺人の犠牲者だ。

 

「そういう奴は真っ先に死なない。二番目か三番目。真っ先に死ぬのは、旅館の女将さんに酔っ払いながらセクハラしてたのを金田一に咎められて、怒りながらうっかり十五年前に旅館で起きた事件について口走っちゃったオッサン」

「ああ〜」

 

めちゃくちゃ心の底からの「ああ〜」が出た。もはや何だか、さとうふみや絵のセクハラオッサンが赤ら顔で鼻の下を伸ばした姿すら克明に思い浮かぶ。決まりだ。こいつが第一の犠牲者だ。

 

「俺は三番目くらいの犠牲者で、旅行用のカメラで旅館の中の写真を撮ってるうちに、トリックの手掛かりになるようなものを撮影しちゃってそのせいで殺されちゃう役」

「なるほど……」

 

ならば、私は夫が遺したダイイングメッセージを必死で解いているうちに犯人へのヒントに気付いてしまい、そのせいで殺される役が良い。なかなか良い配役だと思ったのだが、夫は自信なさそうに首を横に振った。

 

「え、絶対むり……俺絶対そんなとっさにダイイングメッセージとか思いつかないし……」

「何でよ!ダイイングメッセージ解かせてよ!何のために普段あんなにゲームやってるの!あんなに時間かけてダンガンロンパV3をクリアしたのはこのときのためじゃなかったの!?」

 

このためではないと思う。そう言われたので、せやなと素直に頷いた。

 

このブログの記事を毎回読んでくださっている方はお気付きのことと思うが、我々は二人で会話していると無限に脱線していく傾向がある。もともと何を話していたかすら忘れて本題に戻って来れないときもあり、大いによろしくない。

 

最近、二人で京都に行ったときも脱線が酷かった。夫には私の仕事に付き合ってもらった形なのだが、せっかくなら観光もしたい、と京都に向かう途中でガイドブックを買うことになった。

 

最近は本当に便利だ。本屋に寄れなくても、電子書籍ですぐに本が買える。Kindleのストアを検索すると、とある女性誌のバックナンバーが夏の京都の飲食店を特集しているのを見つけた。しかも表紙が嵐の松潤だ。これは買いだろう。

 

「お! これにしよう、表紙が松潤だし」

「え、何で? 雑誌よりガイドブックのが良くない? それなら飲食店以外も載ってるし」

「えっ、でもこれ、表紙が松潤だよ?」

「えっ」

「えっ……?」

 

そのとき、私はようやく気がついた。夫は私と違って、別にそこまで松潤のことが好きではないことに。

 

というか、私はこのときこの瞬間まで、地球上の全人類は老いも若いも男も女も、すべからく松潤のことを好いているものだと思い込んで生きていた。だから、夫の松潤に対するうっすーい反応が衝撃的過ぎた。その思いを新幹線の中で全てぶつけた。だって松潤だぜ!? 

 

「絶対良い奴だぜ!? 会社に遅刻しそうなときでも横断歩道でおばあちゃんの背負ってる重い荷物とか運んでくれるぜ!?」

「会社……?」

「ホントに良い奴なんだって! 絶対! 君が高校生のとき、学校で誰も話せる人がいなくて机でラノベばっか読んでたけど、同じクラスの松潤だけは二人きりのとき気さくに話しかけてきてくれたじゃん!?」

「学校……?」

 

熱弁する私に、夫は戸惑いながらも静かに首を横に振った。

 

「でも……俺、松潤とは多分仲良くなれないよ……あいつ、話合わせてくれようとしてるのはわかるんだけどさ。『漫画好きなの? 俺もアニメとか見るよ!ジブリとかワンピースとか!』って言ってきたんだもん……マジで無理……」

 

いや君、昔からワンピース大好きやんけ。ジブリも金曜ロードショウでやるときめっちゃ楽しみに見とるやんけ。

 

そう突っ込もうとして、ハッと気が付いた。こいつ、なりきってやがる。根明でコミュ力高い人気者のイケメン同級生についていけなくて会話を拒否してしまう、友達のいない根暗オタクの高校生に完全になりきってやがる。

 

アラサー男性の役作りの的確さに慄くあまり、私は思わず名作『ガラスの仮面』を想起していた。このときの私はほぼほぼ、素人であるはずの北島マヤにまばゆいばかりの演技の才能を見出し、恐怖する姫川亜弓だった。

 

私は混乱した。紅天女候補を目指せば良いのか、松潤としてクラスメートと会話を楽しめば良いのか、完全にわからなくなっていた。しかし隣の北島マヤ(※アラサー男性)には一切の邪念無く、ただひたすらに根暗オタク高校生になりきってやろう、そういう真摯な凄みが感じられた。

 

負けられない。そう決意した。新幹線の中で我々二人の席にだけ、異様な緊張感が張り詰めていた。なお、この時点で京都の観光のことは、二人の頭から完全に抜け落ちていた。

 

 

 

 

そのあと普通に昼寝して、起きたらもう京都駅に着く三十分前だった。

 

京都で何をするかは白紙のままだった。「やべっ」と慌てて松潤が表紙の女性誌をKindleで買って、急ぎ熟読する。ランチがおすすめというカレーうどんの店が美味しそうだったので、とりあえずそこに行ってみることにした。(注 : 松潤おすすめのお店というわけではない)

 

混んでいたが、二十分ほど待って入れた。色々メニューがあるようだったが、それぞれ、オーソドックスなカレーうどんとカレーつけうどんを頼んだ。

 

これが両方とも、素晴らしく美味しかった。麺は胚芽入りでモチモチしている。鰹と豆乳、好きなほうの出汁を選べるキーマカレーが美味しい。セットで出てくる、西京みそ漬けの卵黄をのせた麦ご飯はそれ単品でも美味しいが、残ったカレーをかけるともうたまらない味となる。

 

我々は膨れた腹をさすりながら、口々に松潤を褒め称えた。

 

「さすが、松潤おすすめのお店(注 : 松潤おすすめのお店ではない)」

「なんか悪いことしちゃったな。こんな美味しいお店教えてくれるんなら、もっと話に乗ってやれば良かった」

「今度は自分から話しかけなよ」

「うん、そうする。ワンピースの映画誘うわ。二人で見に行く」

 

松潤はやっぱり良い奴だった。そう結論して満足する我々の脳裏で、「今度はこの店三人で来ようぜ!」と気さくに笑いかける、イマジナリー松潤の白い歯が輝いた。

 

お題に回答してみる。

  • 2019.05.27 Monday
  • 01:35

ブログのネタが欲しくて、ツイッターで募集してみた。ありがたいことにいくつかお題を寄せてもらえた。今回はその中から、簡単に答えられそうなものに回答してみる。

 

 

 

Q.アンダーバーとダブルクォーテーションの能力を教えてください!

 

A.思いつかないんですよね……。

 

アンダーバーはなんか、何かと何かを繋ぎ合わせて別の力を生み出す能力、とか考えたんですけど、熱血系のキャラの戦い方にしては地味かな〜ってところが気になって、自分的にはイマイチなんですよ。

 

ダブルクォーテーションはマジで思いつかないっす。なんか良いのあったら教えてください。カッコいいのおねしゃす。

 

 

 

Q.最近見た雲の中で一番おいしそうだったもの

 

A.雲!?普段あんま見ないかもしれない!

 

慌てて美味しそうな雲を探して空を見たら、ひらがなの「く」みたいな形の細長い雲があったのがなんか面白くてムフフフフって一人で笑ってました。平和で良いですね。

 

 

 

Q.ニワトリ愛

 

A.思いつく限り挙げてみた。

 

・美味い
・安い
・可愛い
・高級なやつとスーパーで売ってる安いやつの味の差がそんなにわからんのでお得感がある(※貧乏舌の意見)
・「食いてえ〜!」って思ったとき、コンビニに入ればすぐ摂取できる。ホットスナックのからあげとかで。
・美味い
・とにかく美味い
・美味いんだよな……。

 

愛っつうか……欲しか無いかもしれないな……。

 

 

 

Q.プリキュアと戦う悪の幹部のほうになりたい38才男児なのですが、40才になるまでに夢を実現するにはまず何をするべきでしょうか。

 

A.ねえ、この質問だけなんか濃くない???

 

悪の幹部になる方法……わからねえ……ごめん……。私とあなたがすごく良い友達になれそうとか、そういうことしか私にはわからねえ……。

 

あと自分、腐ってもプリキュアなんで……。悪の道に走ろうとしてる人が目の前にいるのに、放ってなんておけないよ。

 

この世界には、悲しいこともいっぱいある。だけど、希望を捨てないで。そうすればいつか、輝く未来がやってくるはずだから!!

 

(突如、虹色に輝き出すキュア八海山)

 

(キュア八海山から溢れ出た光が、38歳男児を優しく包む。するとどこからか、変身バンクの音楽が流れだす)

 

(音楽が収まった後、そこにはきらきらと紅潮した顔で呆然と、「私が……プリキュアに……?」と呟く、衣装に身を包んですっかりプリキュアへとみちがえた、38歳男児の姿があった……。)

 

 


………。

 

 


地獄か???

 

 

 

ちなみにお題を募集するのに使ったサービスはこちらhttps://odaibako.net/u/chabobunkoです。良かったらなんか気軽に構ってください。

アンダーバー&ダブルクォーテーション

  • 2019.05.25 Saturday
  • 16:51

叫んだときに一番カッコいい記号の名前は、「アンダーバー」だと思っている。漫画とかアニメの必殺技っぽい。ぜひポーズを決めながら、ヒーローの必殺技のように、高らかに大声で叫びたい。必殺!アンダー・バー!!

 

そんな話を夫にしたら、「ダサくない?」と一言で斬って捨てられた。いささかムッとした。じゃあ、どんな記号がカッコいいのか言ってみろってんですよ!啖呵を切ると、夫は少し思案してから、ぽつりと呟いた。

 

「ダブルクォーテーション」

 

思わず口に手を当て仰け反りながら、ッヒィ〜〜〜!!!と情けない悲鳴をあげてしまった。カッコいい。これは確かにカッコいい。負けた、と思った。今までカッコいいと思っていたアンダーバーが、ダブルクォーテーションに比べると世代一つ分くらいはダサく見える。オモチャ売り場で子供たちが群がり、品薄状態のダブルクォーテーションの隣で、半額セールの在庫が山積みとなった寂しいアンダーバーの姿が瞬時に脳裏をよぎった。

 

アスタリスクもカッコいい、と夫は続ける。だがしかし、この意見には少しばかり反発させてもらった。アスタリスクは逆にあまりにカッコ良すぎると言うか、アスタリスクがカッコいいことは既に万人の知るところである。目新しさに欠ける。そう指摘すると、「能力による」と夫はさらに反論した。

 

「アスタリスクは……その魂に星の力を宿せし者の能力……。だからなんか……すごい強い星の力とかが……使える!!」

 

魂に宿りし星の力。こんなカッコいい響きに心ときめかない小学生がいるだろうか。目新しさに欠けようがなんだろうが、やはりカッコいいものはカッコいいのだ。いや、小学生ではなく、もうアラサーなんですけども。

 

パソコンのキーで言ったら、デリートもカッコいい、とさらに夫は続ける。私は思わずもう一度口元を押さえた。デリートの能力をその身に宿せし者の悲劇的な運命に、一瞬で思いを馳せたからである。

 

彼はこの世の万物全てを指先一つで消去、“デリート”してしまう、最強の能力者である。絶対、「俺には感情が無い……この能力(ちから)で、自分の心も“デリート”したんだ」とか言う。間違いなく敵キャラだ。能力を駆使し、冷徹な殺戮を繰り返す彼には、アンダーバーとダブルクォーテーションのバディも随分と苦しめられた。

 

しかし戦いの中で、デリートに変化が訪れる。彼には昔、恋人がいた。しかし彼は自分の能力を制御できなかったことで、その恋人をも“デリート”してしまう。デリートが感情を失ったのはその一件からだった。つまり彼は、自分の心を“デリート”してしまったわけではなく、事件のショックから心を閉ざしていただけだったのだ。

 

そのことに気づいたデリートが選んだのは、戦いを止め、今度は正真正銘、自分自身を“デリート”することだった。ボロボロの体で必死に制止するアンダーバーに、無表情だったデリートは初めて微笑みを浮かべて見せた。

 

「あいつと同じところに行かせてくれ……」

 

その表情はとても穏やかだった。それでもなお彼を止めようと、力を振り絞って手を伸ばすアンダーバーを、今度はダブルクォーテーションが必死に押し留める。わずかに届かなかったアンダーバーの指先で、デリートの姿はフッと掻き消えた。

 

 

後日、とある都内の霊園に訪れたアンダーバーは、その片隅で意外な人物を見つけた。

 

「……ダブルクォーテーション」

 

ぽつりとその名を呟く。ダブルクォーテーションは振り向き、「あなたが来るとは思いませんでした」と淡々と呟いた。

 

「……こっちのセリフだ、それは」

 

不貞腐れた返事をしてしまった気まずさを誤魔化しながら、アンダーバーはダブルクォーテーションの隣に並び、一緒にしゃがんで手を合わせた。

 

墓石に刻まれた名前の内には、デリートの名も並んでいる。

 

「……消えちまったからな、あいつ。居ないところで拝まれても、何とも思わねえかもしれないが」

「良いんじゃないですか?こういうのは、残った側が気持ちの整理のためにやるようなものですから」

 

残った側。それは即ち、自分たちのことか。そう考えると確かに、この霊園に自然と足が向いてしまったのも、デリートのためというよりは自分のためであるような気がする。

 

ちらり、とアンダーバーは、隣で目を閉じるダブルクォーテーションの端正な横顔を盗み見る。つまりこいつもまだ、気持ちの整理が付いてないってことなのか。

 

デリートを助けてやれなかった。その悔しさをつい、ダブルクォーテーションに八つ当たりでぶつけてしまった。どうしてあのとき、俺を止めたんだ!デリートが消えた後、ついさっきまで彼が立っていた地面を殴りながら、そう言って悔し涙を流すアンダーバーから、ダブルクォーテーションはただ黙って目をそらすだった。それから喧嘩別れみたいになって、ダブルクォーテーションとは暫く顔を合わせていない。

 

普段から、ダブルクォーテーションとは喧嘩ばかりだった。成り行きでバディを組むことになったものの、互いに不満たらたらだった。一回りも世代が違えば、性格も違い過ぎた。年上で情に脆く、熱血漢のアンダーバーをダブルクォーテーションは鬱陶しがったし、年下で妙に冷めたところのあるダブルクォーテーションの生意気さを、アンダーバーは「ヒーローには向かない」と頑として認めなかった。

 

二人の言い合いはいつも激しかった。アンダーバーはダブルクォーテーションに対して、「お前には血が通ってない」なんて、それこそ冷たい物言いをすることさえあった。でも、だからこそあの日……デリートが消えたあのときには、ダブルクォーテーションに対して突っかかるような真似をしてはいけなかった。いつもならすぐに皮肉な憎まれ口で言い返してくるダブルクォーテーションが、じっと口を噤んだままだった。そこでようやく、この若者も自分を責めているのだと、鈍感なアンダーバーは自分の大人げなさに気付いたのだった。

 

「……悪かったよ、あのとき」

 

言いあぐねて曖昧な表現になったが、同じことに思いを馳せていたのだろうダブルクォーテーションには、それで通じた。ダブルクォーテーションは眼鏡の縁を指で軽く押し上げながら、「こっちこそ」と口を開いた。

 

「すみませんでした。あのとき僕があなたを止めていなかったら、もしかしたら、デリートは助かって……」

「いや、謝らないでくれ。あのときはお前が正しかった。もしお前が止めてくれなかったら、あいつの能力に巻き込まれて俺も“デリート”されていただろう。今頃は俺も墓の下だ。だから……ありがとうな、ダブルクォーテーション」

 

照れ隠しに、帽子を目深に被りなおしながら頭を下げる。もっと早く、自分から謝るべきだった。アンダーバーはもう一度、自分の大人げなさを恥じた。大人げない、なんて、ダブルクォーテーションにいつも喧嘩のたびに言われていたはずなのに。今さらのように身に沁みた。

 

「今度からは、冷静になるよ。お前みたいに」

「いえ……そんな必要は、無いんじゃないですか」

「?」

「あなたの、良いところだと思いますから。その、熱血で、情に厚くて、向こう見ずなところ。まあ、鬱陶しいときも多いですけど……」

「余計なお世話だ」

 

思わずいつものようにムッとする。ダブルクォーテーションは、至極真面目な顔で続けた。

 

「でも、心を失くすのは怖いことだって、彼が……デリートが教えてくれましたから。僕の隣には、あなたみたいな人が居てくれると、きっとちょうど良いんです」

 

アンダーバーはきょとんと目を丸くした後、ダブルクォーテーションに向かってニッと笑ってみせた。ちょうど同じことを考えていた。もしかしたら自分たちは、良い相棒になれるのかもな、と。

 

ダブルクォーテーションも、珍しく唇に笑みを浮かべていた。「行くか」「ええ」声を掛け合って立ち上がる。次なる強敵が、自分たちヒーローを待っている。

 

二人が背を向けて後にした墓石。細く二本の線香の煙が立ち昇るその向こうには、デリートの名の隣に並んで、かつての彼の恋人の名も刻まれていた……。

 

 

 

 

 

 

あの。

 

合ってます?こんなんで。

 

見たことないけどこんな感じの話かなって、何となく勝手に思ってるんですけど。タイガー&バニー。

 

 

 

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