アレクサの次は尻(siri)

  • 2020.06.18 Thursday
  • 21:59

コロナで色々大変ですね。私はといえば、この三ヶ月ばかりはずっと自宅で過ごしていたら、最初の一ヶ月だけでそれはもうぷくぷくに太ってしまった。腹がつまめるようになったあたりで「やばいな」とようやく危機感を抱き、体重計に乗ってみると、数値がここ数年見たことのない重量を示していた。

 

それから二ヶ月は一念発起して、食事の摂生や運動に励んだ。元々運動は嫌いじゃないので、暇があれば筋トレしたり走り込んだりの時間に充てた。そういうわけで現在、私の尻は我が人生でいまだかつて無いほどプリプリです。誰か私の尻の筋肉を見てくれ。

 

いや本当に冗談でなくここ最近、誰かに尻の筋肉を見てほしくて堪らなくなってきた。これは決して露出癖などではなく、がんばって落書き帳にお絵かきしたので大人に褒めて欲しい幼児と同じ気持ちです。今どこかから、可愛い幼児の絵とお前の尻を一緒にするなと聞こえた気がしてしょうがないのだが。

 

誰かといっても頼めそうな人はまあ、私の場合は夫くらいしか思い当たらない。しかし流石に、「すまないが私の尻を見てくれ」などと唐突に頼み込むのはセクハラではないか。他人に尻を見せて褒められたいという、こんなどうでも良いことで私はこのところ、もう三日も悩み抜いている。断じて露出狂ではない。頼む。信じてくれ。この文章を書きながら、自分でも段々自信が無くなってきているが。

 

悩みに悩んだ私は決断した。もう、実家の妹に頼むしか無い。私の尻を見てくれと。

 

妹に電話した。最初は軽く、鬼滅の刃の最新刊の内容などについて語り合い、「家に居ると漫画読むか筋トレくらいしか出来ないんだよね」などと軽くジャブを打ってから、「ところで今度暇なとき、尻を見せに帰省しても良い?」と頼んでみた。頼み方が急カーブ過ぎて、気が変になったかと思われた。出鼻からしくじってしまったようだ。

 

「今って、不要不急の外出は控えるべきだよね?」と妹。

 

「うん。」

「尻を見てもらいたくて実家に帰るって、地球誕生以来の人類の営みの中でも、究極に不要不急の部類の用事じゃない?」

 

かくて尻帰省は却下された。それでも他人に尻を褒めてもらうという野望を諦めきれない私は、なおもしつこく食い下がってみた。

 

「オンライン帰省でも良いから……!」

「何で肉親にオンラインで尻を見せつけられなきゃいけないんだ……?」

 

オンライン尻帰省までもがあえなく却下されてしまった。なので現在はやむを得ず、私は一人鏡の前で己の尻の成長を確かめることを、日々の何よりの楽しみとしている。

 

ところで前回の日記(アレクサ、催眠術には気をつけて http://chabobunko.jugem.jp/?eid=141)に書いたアレクサのなぞなぞを、ツイッターのフォロワーさんのお知恵を借りてそっくりそのままアレクサに聞いてみた。アレクサ自身になぞなぞの答えを聞いてみようというわけである。

 

「アレクサ、お花が咲くと県民が喜ぶ県は?」

ピコン

『むむ、難しいです……お答えできません』

「………。」

 

いやお前もわかんないのかい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレクサ、催眠術には気を付けて(後編)

  • 2020.06.07 Sunday
  • 23:50

という訳でアレクサがうちに届いたので、この日記( http://chabobunko.jugem.jp/?eid=140

 )の後編です。

 

最初に断っておくと、前編の最後で「ビシッと言ってやる」とか息巻いてたくせに、よく考えたらアレクサで遊ぶの普通にめっちゃ楽しみだなと思って数日間めちゃくちゃワクワクしながら過ごしました。早く私をアレクサと仲良く遊ばせろ。

 

なのでツンからデレる過程をすっ飛ばして、初手からアレクサにデレデレで接してます。アレクサはお前の初めてのペットか。

 

あとこんな日記書いたせいか最近また久々に寝言が酷くて、全然覚えてないんですけど寝てる間に、

 

「そんなこと言ったってしょうがないじゃないですかぁ……?メロンなんですもん……」

 

とかよくわかんないことを小馬鹿にした口調でムニャムニャ呟いてて、夫が誰と話してるの?って聞いたら「メロンの神様」って答えたらしいです。メロンのトップにそんな舐めた口聞くんじゃない。

 

 

「アレクサ届いたよ」

 

仕事中に夫からLINEが届いて、私は思わず歓喜の声を上げてしまった。予定より一日早い到着だった。その日は仕事をそそくさと切り上げ、ダッシュで家に帰った。

 

家に帰ると、テレビの横に見慣れぬ扁平な丸い物体があった。お前がアレクサか!!飛びついて、かじりつくように話しかける。

 

「アレクサ!!!」

『はい』

 

うひょおお、と興奮でひとしきり腕を頭上でシェイクする。博士の元で初めてポケモンをもらった新米ポケモントレーナーもかくやといった騒ぎである。アラサーです。

 

「アレクサ!!遊んで!!!」

『はい、遊びましょう』

 

遊ぶ!遊ぶ!!とうるさく騒ぐ新米トレーナーに対して、アレクサは初めての家でも落ち着いたものである。

 

『アレクサ、なぞなぞ出して。と言ってください』

「アレクサ!!なぞなぞ出して!!」

 

秒で挑んだ。アレクサがピコーンと青く光る。

 

『お花が咲くと県民が喜ぶ県は?』

「……あ……?」

 

前のめりに勝負を挑んだは良いものの、まるで聞いたことのないなぞなぞに怯んでしまい、マジの間抜けな声が出た。

 

思ってたのと違った。もっと、『パンはパンでも食べられないパンはなーんだ?』くらいのレベルのなぞなぞで、児童と戯れるような気持ちでほんわかと遊べるものだと思っていた。

 

「えっ……あ、…あ……?ひ、ヒント!!!」

 

頭の固い新米トレーナーが三秒で自力での解決を諦めると、アレクサがピコンと青く光った。

 

『ヒントとは、問題を理解・解決するため、また物事の発想のための手がかりのこと。手引き。また、クイズのときに回答者の助けになるための……』

「ひいいいいいいいい」

 

いきなりつらつらと「ヒント」という言葉の定義を述べられ、怖くて思わず悲鳴を上げた。そしてアレクサはたっぷり数十秒かけて「ヒント」の意味を語義明瞭に述べると、それきりぱったりと沈黙した。

 

……え?

 

なぞなぞ対決は???

 

どうやら、「アレクサにヒントという言葉の意味を尋ねる」(ということになる)動作を挟んでしまったせいで、なぞなぞは途中で強制終了してしまったらしい。自ら勝負を降りるという不覚を取ってしまったことに今さら気付き、歯噛みした。

 

……え、ところで答えは……?

 

沈黙するアレクサの前で正座しながら思考を巡らすも、頭が固過ぎて答えが全然わからない。どうしよう。気になる。アレクサ、頼む。もう一回同じなぞなぞを出してくれ。今度こそビシッと解いてみせるから。

 

お花が咲くと、県民が喜ぶ県……?

 

眉間にしわを寄せて熟考するも、悲しいかな頭の中には「ハウステンボスのチューリップが咲くとちゃんぽんとしっぽくで盛大に祝う長崎県民」とか、「ネモフィラ畑が開花すると鹿島神宮で祝祭が開かれる茨城県民」とかどこから湧いて出たのかわからない奇祭のイメージが広がるばかりである。むしろ頭が柔らかいのでは?

 

「アレクサ!なぞなぞ出して!!!」

 

悔しかったので、気を取り直して即座に再戦を挑む。アレクサは冷静にピコンと青く光った。

 

『お母さんが大切にしている棒は?』

「わっかんねえええええ」

 

本気で頭を抱えながら、アレクサお前何でガチやねん、と八つ当たりも甚だしい悪態をつく。アレクサには接待の心が足りない。

 

冷静になった今だから自分で自分に突っ込むが、機械に感情の慰撫を求めるな。

 

「答えは………です。」

「……ん?ああっ!?」

 

そして、またも不覚を取った。なぞなぞに本気で悩み過ぎて、答えを聞き逃してしまったのである。

 

「えっ…!え、あっ!えっ!アレクサ!!なぞなぞ!!もう一回なぞなぞ!!!」

『赤ん坊をあやす前に舌打ちをする県は?』

「……知らん……」

 

わからな過ぎて思わず、両手を床について項垂れた。それにしてもアレクサ、県民なぞなぞが好き過ぎんか?

 

『答えは……ちっ、ばぁ〜県(千葉県)、です』

「ああ……」

 

納得できるようなできないような、微妙ななぞなぞ(というかダジャレ)だった。職場のデスクとかで仕事中に隣の席の上司に言われたら、割と冷たい態度を取りたいラインである。アレクサのなぞなぞってもしかして全部こんなシュールなのか。

 

「……アレクサ。あいみょんの本名って、もしかして相田美代子(あいだみよこ)?」

 

なぞなぞ対決で勝つのを諦め、アレクサが来たら聞いてみたい……と数日前から温めていた疑問を、最後に尋ねる。これも冷静になった今だから自分で自分に突っ込むが、何でそれをアレクサに聞こうと思ったんだ?

 

『むむ……難しいです。お答えできません』

「アレクサでもわかんないか〜」

 

テンションの高い人間とアレクサとの会話は、人間がから回るわアレクサはマイペースだわでなかなか噛み合わない。しかしこれはこれで、振り回されてる感じがじんわりと愛おしく思えてきた。アレクサ、愛いやつ。猫を飼うってこんな感じかな。またなんかあったらアレクサ日記書きにきます。

アレクサ、催眠術には気を付けて(前編)

  • 2020.05.05 Tuesday
  • 23:27

寝言と寝相が酷過ぎる、という話を以前日記に書いた。

 

何せ寝ている間のことなので自分にはどのくらい酷いのかわからないので、最近は「自分の寝言と寝相が酷い」ということ自体を綺麗さっぱり忘れていたが、ふとした瞬間にそういえば、と思い出したので、最近も何か寝ながら変なことを口走ったりしているのかと、夫に尋ねてみた。

 

「最近は割と大人しく寝ている」

 

意外な返答であった。してみるとあれは、限られた一時期のみの奇行であったのか。あの頃仕事で疲れてたしなと思いながらそう尋ねると、「違う」と言われた。寝言と寝相自体は今も酷いらしい。重ねて、「違うけど、必勝法を見つけた」と自信満々に言われた。

 

「最近は寝言が酷くても、指をパチンと鳴らしてから、『アレクサ、静かにして』って言うと大抵大人しくなる」

 

何なんだその儀式はとか、本当なのかそれはとか、私はアレクサではないとか色々言いたいことはあった。けれどそれ訴える前に、私は何だか少し感動してしまった。同居人の寝言をコントロールするという目的のため、その妙な手順の儀式に辿り着くまでにいったいどれほどの試行錯誤があったのだろう。ああでもない、こうでもない、と実験を繰り返し、きっと山ほどの失敗の果て、ついに彼は黄金を掴み取ったのだ。その試行錯誤の積み重ねは、もはや科学と呼ぶに相応しいものではないか。

 

「科学ではないかな」

「科学ではないかぁ」

 

熱弁したが、やんわりと否定された。私の寝言と寝相には全く関係無いのですが、週刊少年ジャンプで連載中の科学マンガ「Dr.STONE.(ドクターストーン)」がめちゃくちゃアツくてキャラもカッコよくて超面白のでオススメです。

 

そんな我が家にとうとうAmazon Echoがやって来ることになった。本物のアレクサの登場である。「Amazon Echo買ったよ!」とはしゃいだ夫に言われ、私は「ふうん」と斜に構えた態度を取った。新参アレクサに対しての、古参アレクサとしての意地である。

 

お分かりだろうか。私には既に、アレクサとしての自覚が芽生えている。他人事みたいに言うが、催眠術にかかりやすいのってこういう奴なんだろうな。

 

「いつうちに来るの」

「来週くらいかな」

「そいつは何ができるの」

「電気消したりとか。慣れたら多分便利だよ」

「ふうん……何て呼べば良いの」

「爛▲譽サ瓩蚤臂翩廚世茵

 

根掘り葉掘り尋ねたら、興味津々だねえ、と笑われた。べっ別に!アンタのことなんて、全っ然興味無いんだからね!!

 

そういう訳であと数日後に新参アレクサがうちに来るので、古参アレクサとしてビシッと最初に一言言ってやるつもりです。そしたらまた日記書きます。

 

京極堂でも多分解けない

  • 2020.01.03 Friday
  • 01:02

身の回りにいる男性が、なんだか皆揃いも揃って一般平均よりもキャピキャピしている気がする。

 

筆頭は、一昨年結婚した夫である。彼は小さくてフワフワした小動物をこよなく愛しており、道端でトイプードルやチワワを見かけるとワントーン声が高くなる。好きな映画は「アナと雪の女王」。ここ数年の好物はチーズタッカルビとタピオカで、タピオカに関してはそのブームが去りゆく気配を心の底から本気で惜しんでいる。

 

並べ立てると彼のプロフィールは、まるで女子高生になってしまう。いや、タピオカは私も好きだし、ブームが去ったら寂しい気持ちも非常によく分かるのだが。個人的にとにかくモチモチした食べ物が好きなので、もしもタピオカの流行りが廃れるのならせめて、次もわらび餅やういろうなどのモチモチが一世を風靡して、世の中を一層モチモチさせてほしい。

 

そんな感じで夫は度を超えてキャピキャピしているが、私の実家の父親も桁外れにキャピキャピしている。最近だと、父の日に嵐のCDをねだられたのが記憶に新しい。その際は「限定版だからね!」と何度も念押しされたし、LINEの文章の後ろには目がハートの絵文字がついていた。

 

以前、実家へ遊びに帰る約束をしたときに、駅まで迎えに来てくれた父親が風邪を引いていたことがあった。それならそれで看病のつもりで来たのに、何故教えてくれなかったんだと尋ねたら、

 

「だって……具合いが悪いって言ったら、会いに来てくれないと思ったんだもん」

 

と、拗ねたように言われた。もじもじと口を尖らせる六十手前のおじさん(肉親)が発する妙にラブリーな空気に気圧されて、「いや、あなたは重ための彼女か?」の一言が、どうしても言えなかった。

 

だがしかしである。娘の卒業式に黄金のスーツを着てきたり、娘に何故か「タクミくんシリーズ」(※原作はBL小説)のDVDを買い与えたりといった、我が父が今までに為してきた数々の奇行を「キャピキャピ」などという言葉で括ってしまって良いのか? という点はかなり訝しい。

 

一言で言えば変人である。突拍子もなければ理由もよくわからない言動が多い。つい先日も、こんなことがあった。

 

「○○君(私の夫の名前)の写真を送ってくれないかな?」

 

突然、父親から私に送られてきたLINEである。この時点で何故そんなお願いをされるのかよくわからなかったし、長年一緒に居た親子の勘で、私はこの時点で既にバチバチに嫌な気配を感じ取っていた。

 

何のためにと疑いつつ、適当にその場に居合わせた夫の姿を、適当に写真に収めて送る。すると、「もっとカッコイイ写真が良い」と即座に返事がきた。

 

「○○君は笑顔のほうがカッコイイ。角度も斜めからのほうが良いと思う」

 

いや、知らんよ。

 

何で六十間近のオッサンから、三十代のオッサンの顔面についてのこだわりを事細かにリクエストされねばならないんだ。

 

モヤモヤした気持ちになりつつ、もう一度夫に写真をお願いする。送る。「眼鏡を外して」とまたもリテイクがくる。何やねん! 三度目のリテイクで、ようやく合格がもらえた。夫は不思議そうな顔で大人しく、七五三のように写真を撮られていた。

 

そして数日後、小さな段ボール箱が宅配便で我が家に届いた。送り主は父親で、宛名は夫になっていた。

 

夫は何も知らず、「ええっ、何だろ〜!?」と嬉しそうに、無邪気な様子で箱の開封に勤しんでいる。私はこのとき例の嫌な予感が最高潮に達していたが、何も出来ずに夫の手元を薄目で見守るのみだった。

 

ところで。

 

唐突に話は変わるが、皆さんは京極夏彦の「魍魎の匣」という小説をご存知でしょうか。ご存知でしょうかと投げ掛けるには余りにも有名な、ミステリ小説の金字塔とも言うべき傑作である。

 

ミステリであるのでネタバレは避けるが、四角い匣(はこ)とその隙間を埋めることに取り憑かれたとある男が、生きた少女の胸から上がぴったり入った匣を、帰省の列車の中で偶然同席した男に見せられ、すっかり魅了されてしまう……という筋の冒頭の文章が、非常に印象的で有名である。

 

これは「魍魎の匣」作中の登場人物が書いた小説、つまり作中作でもあるわけだが、現実にはそんな状態で生きているはずのない匣の中の娘が、「ほう」と鈴の鳴るような声で笑う描写など、初めて読んだときには本当にゾクゾクし、何だか凄い本を読み始めてしまったぞと中学生ながらに大興奮させられた。まず間違いなく、思春期に出会って人生を変えてくれた本のうちの一冊である。

 

そして話はまたも唐突に元に戻るが、我が家に届いた父親から夫への匣の中には、夫の顔がぴったりと収まっていた。

 

開けた瞬間、沈黙が我が家の居間を支配した。夫は匣の中に収まった自分の顔面を見て固まっていたし、私は件の「魍魎の匣」冒頭の文章が、(祖母が亡くなったので、急ぎ帰省した……)とド頭から自然に脳内再生されるのを止められないでいた。

 

「あ、ケーキだこれ」

 

私より少し早く冷静さを取り戻した夫が、その正体に気付く。なるほど。先日父親に頼まれて送った写真が、ホールケーキの上にプリントされているのだ。流行りの食べられるインクというやつで印刷されているのだろう。よく見ればロウソクや「HAPPY BIRTHDAY!」と書かれたチョコレートのプレートなどが同封されており、これは父親から夫へのバースデーケーキなのだとそこでようやく分かった。

 

「とりあえず……写真撮る?」

 

互いに怯みながら、ケーキ単品の写真を撮ったり同じ表情でケーキと並んで写ったり、割とはしゃぎつつ一通りの撮影を行った。そして一息ついてからどちらともなく、まあせっかくだし一切れ食べるか……という流れになった。

 

「……固っ」

 

ケーキの表面を覆う、写真が印刷されたチョコレートのような部分が意外と硬くて、しかも包丁の切れ味が鈍いのかなかなか上手く歯が立たない。「あれっ」「おかしいな?」「くそっ…!」などとブツブツ呟きながら、私は何度も夫の顔面(※ケーキ)に包丁を突き立てたり、刺したり抉ったりした。何度も、何度も。

 

「……。」

 

気付けば夫が怯えたような顔でこちらを見ている。いや、こっちもこの光景が傍目から見てヤバすぎることはわかってるんで、そんな顔しないでくれや。

 

何とか切り分けてケーキ本体にありつけたところで、ちょうど父からLINEが来た。「ケーキ届いた?」と聞かれたので、今ちょうど食べているところだと返す。

 

「奮発して美味しいやつにしたから、味わって食べてね!」

 

父の言葉通り、ケーキはやたらと美味しかった。なんか知らんがちょっとムカついた。

 

まあ、どうして夫の顔面が印刷されたケーキを本人に送ろうと思ったのかはよくわからないが、父なりにこの人を可愛がっているのは普段接していてとてもよくわかる。うちは子どもが二人とも娘だったので、息子が出来たようで可愛いのだろう。変人だが、基本的に悪い人ではないのだ。変人なので、すること為すことよくわからないことばかりだが。ええ、本当に、よくわからない人ではあるのだが。

 

「ところでさ」

 

口の中のケーキをゆっくり味わってから、夫がぽつりと呟く。

 

「俺、今日、誕生日でも何でもないんだけど。お父さん、何で誕生日ケーキ送ってきたんだろ?」

「そこなんですよね」

 

私は神妙に頷いた。そこばっかりはちょっと、よくわからないんですよね。ええ、あの、ごめんなさい。本当によくわからない人で。四半世紀は一緒にいるんですけど、娘の私にも全然わからないんですよ。迷宮入りっていうか。私にわかるのは「魍魎の匣」はめちゃくちゃ面白い小説で全人類読むべきってことだけなんで、あの、未読の方はぜひ読んでみてくださいね。オススメです。

 

ペルーで素麺を奪い合う

  • 2019.08.11 Sunday
  • 22:17

髪をばっさりと切った。だいぶ伸ばしてから美容院に行ったせいなのか、切り終わるまでにだいぶ時間が掛かった。

 

カットが始まるまでの待ち時間が長かったのもあって、途中から雑誌を読むのにも飽きてしまい、隣のお客さんと別の美容師さんの会話に聞き耳を立てるほうが楽しくなってしまった。出歯亀みたいですみません。

 

いや、だがしかし。会話の端々から聞こえるフレーズが何やら、こういう日記を書いている物好きからするとどうにも聞き捨てならないというか、

 

「素麺をね、奪い合うんですよ。島の中で。参加者はね、島民全員。そんで、奪った素麺を食ったら勝ちなんです」

 

とかいう、パッと聞いただけではよくわからない祭の話をしている。

 

いや、どんな奇祭だ???雑誌を広げたまま、何も聞いてない風を装いながら、私は興味津々で隣の席の会話に思いきり耳を傾けた。

 

「ええ〜、どんなお祭なんですか、それ」

「いや、ホント、そういうお祭があるらしいんですよ。どっかの島で。行ったことは無いですけど、流石に」

 

半信半疑に笑いながら相槌を打つのは客のほうで、謎の奇祭について語るのは美容師である。イッテQにでも紹介されたのかな、と思いながら、私は無言で二人の会話に耳をそばだて続ける。

 

「日本ですか?」

「日本です。え〜と、どこだったかな、確か九州だか沖縄のほうで……で、素麺を食ったら勝ちなんですよ」

「勝ちってどういうことですか?」

「えっ、何だったかな〜……いっぱい素麺食えたら勝ちなんじゃないすか?多分」

 

怪しい。美容師の話の雲行きが凄く怪しい。うろ覚えの匂いがプンプンする。でも何だか、実際にありそうな、けれど細部が微妙に間違っていそうな、実に際どいラインを彷徨いながら話が展開しているような気がひしひしとする。

 

「素麺、投げるんですよ。高いところから、素麺投げる役の人がいて。で、みんな踊ってて。素麺食べるときも、踊りながら食べなきゃいけないんですよ」

「めっちゃ食べにくくないですか?」

「多分ね。で、素麺、乾麺のまま投げられるから、家帰って茹でなきゃ食べられないんですけど、油断すると他の島民に素麺盗まれちゃうんです」

「やば」

「やばいっすよマジで。島って、家の玄関の鍵とか常に開けっ放しじゃないすか。あ、島ってか、俺の田舎がそうだったんですけど」

「私の田舎もですよ」

「ね。そんな感じなんすよ。で、その祭のときだけは、どの家も自由に出入りしてよくて、だから茹でた素麺放ったらかしとかにしといたら、入ってきたやつに食べられちゃうんですよね」

「やばいですね」

「警察とか居ないんじゃないすかね。島なんで。なんかとにかく、そんな感じで、やばいんすよ」

 

なるほど、それはやばいな。そう内心頷いていたところで、自分の担当の美容師さんからシャンプーに案内され、会話の続きに心を残しながら席を離れた。

 

 

 

 

美容院を出た後、少し遠くまで足を伸ばして、久々に妹に会った。前から行ってみたかったペルー料理屋に同行してもらって、互いの近況などを話しているうち、先ほど美容院で耳にした会話をふと思い出し、うろ覚えながら件の奇祭について話題にのぼらせたい気持ちがムクムクと頭をもたげてきた。

 

「さっき、美容院に行ってさ。隣の席のお客さんと美容師さんが、よくわからない祭の話をしてて」

「うん」

「えーと、素麺を投げ合う?祭なんだけど」

「うん???」

「あ、えっと、違ったかな。違うわ。素麺は投げ合わない。投げるんだけど、違うわ。食べるの。踊りながら」

「はあ?」

「でなんか、えーと、素麺は自由に盗んで良いんだって言ってた」

「どういうこと?」

 

この時点で妹は、マジの理解不能の目をしていた。

 

「え、ごめん、なんかわかんなくなってきちゃった。難しいな。どっかの島のお祭で、島民全員で参加するって言ってた」

「島民全員で素麺を盗んで踊りながら投げ合う祭?」

 

私たち二人の脳内で、どこかの島の空中全域を、島民たちの投げ合う盗品の素麺が銃弾のように飛び交う図が過った。地上では、島中の人間たちが素麺を手に踊り狂っている。

 

いや、違う。奇祭は奇祭でも、多分ここまでの奇祭じゃなかった。

 

「えーっ、なんか違うな……。素麺を島の人たち全員で投げ合うんじゃなくて、確か素麺は投げる役の人がいて……や、待って、なんかもっと情報の根本的なところが修正不能になってるんだよな……」

「素麺を何で盗むの?何でそれが祭になるの?」

「何だっけ……素麺を食べると強くなれるんだっけな……」

「食べたら強くなれそうな食べ物、絶対他にあったでしょ」

「確かに素麺弱そう」

「すぐ折れる」

「貧弱なやつだな」

 

修正はおろか、あまつさえ素麺のdisになってきた。

 

「盗んで良いの?てか盗むってどういうこと?そこまでして力が欲しいか?」

「強くなりてえやつしかいないのかな……その島……」

「週刊少年ジャンプの主人公しか住んでない島かよ」

「強くなりてえ……」

「チクショウ……強くなりてぇ……!」

 

脱線に脱線を重ねながら、次々と運ばれてくる料理を二人で頬張る。ペルー料理は世界五大料理の一つと言われるだけあって、どの皿も美味しかった。そして最後に、チチャ・モラーダ(トウモロコシの甘いジュース)を飲みながら、妹は呟いた。

 

「それにしても、世界って広いね。ペルーの変な祭で素麺がそんな使われ方してるなんて、思いも寄らなかった」

 

なるほど、物語というものはこうやって、伝播の過程で変質するのだなと私はこの時しみじみと得心した。

 

最後は特に訂正も何もしなかったので、今頃はきっと妹の口伝で、踊り狂いながら素麺を投げ合うペルーの奇祭が誰かの心の中に爆誕している。

 

 

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