魔性のサッ●ロポテト

  • 2019.05.17 Friday
  • 19:17

家のトイレに入ったら、床の上に、カルビーのサッポロポテトの空き袋(言わずもがな食べ終わった後の)が放置されていた。見つけた瞬間、思わず固まった。

 

自分ではない。この家は私と夫の二人暮らしである。となれば、犯人は一人しか居ないではないか。

 

あの人、トイレでスナック菓子食ったの?マジ?

 

「便所飯」という言葉がある。友人の居ない、もしくは一人が好きな学生が、人目を避けてトイレの個室にこもり弁当を食べる行為を指す。

 

故に「便所飯」という言葉には何となく物悲しさが漂うが、対して「便所サッポロポテト」はどうだ。もはや欠片の悲壮感も無い。本来ならば孤独をかこつはずのトイレで飯を食うという行為で、あえてサッポロポテトを食らう。別にリビングで談笑しながら、くつろぎながら食べて良いはずのサッポロポテトを、あえて孤独にトイレで食す。その行為には、もはや堂々とした威厳すら漂うではないか。孤独を恐れずむしろ味わい尽くす、王者の風格だ。

 

いや、やっぱただ単に不衛生だから止めてくれや。

 

そんなことを思いながら、でも心のどこかでは、流石にトイレでサッポロポテトを食べたわけではないだろうと思っていた。トイレの床に袋が転がっていたのは、何か他に理由があるのだろう。ゴミをまとめようとして、トイレにまでゴミを持ってきちゃったとか、何かそんな感じで。だってトイレでサッポロポテトを食べるとか、流石に意味わかんないし。

 

聞いてみた。ものすごく自然にあっさりと、「うん、食べたよ」と頷かれた。

 

何て???

 

こちらの目が点になる。食べたの?マジで?もう一度問うと、夫はまたもごくごくあっさりも、「うん、食べたよ」と全く同じように頷いた。

 

「食べ……え?マジで?トイレでサッポロポテト食べたの?ほんとに?え?」

「うん、食べたよ。俺、トイレでサッポロポテトを食べたよ」

 

私は混乱した。想定していた答えと、相手の反応がまるで違う。

 

正直言って、夫が本当にトイレでサッポロポテトを食べたとは思いもしていなかった。必ず、他の理由があるのだと思っていた。

 

だから、私に勘違いをされて慌てふためいて、「違うよ〜!」などと必死に言い訳をする夫を、からかって遊んでやろう。そういう腹づもりだったのだ。ただただ単に、新しいおもちゃを見つけた子どものような、そういう気持ちだったのだ。

 

「うん、食べたよ」

 

だが夫はもう一度、至って普通の顔で、平然と頷きながらレコーダーのように先ほどと同じ言葉を繰り返した。いや、この人サイコパスか?

 

や、でも。私は立ち止まって考え直す。もしかして、夫にとってはそれが普通なのか。普通と言わずとも何か、それまで過ごして来た地方の習わしというか、「五月の上旬にトイレでサッポロポテトを食べると一年間健康に過ごせる」とか、そういう独自の風習がある地域で暮らしてきた可能性もある。あるか?マジで?いや、わからないけど、無いではない。無いではないなら、あるではないか!

 

「何で、トイレでサッポロポテトを食べたの?」

 

ほとんど文化人類学者のような気持ちで、私は夫に問いかける。夫はぼんやりと首を傾げながら、訥々と答えた。

 

「んー、なんか、トイレでサッポロポテトを食べたことって、今まで無いなあ……ってふと思って」

「そりゃあ無いと思うよ」

 

思わず声に出た。夫は事も無げに頷く。

 

「うん、だから、食べてみようかなって思って」

「???」

「食べながらトイレに入って、便座に腰掛けたまま、食べ終わったんだけど。そしたら、袋だけ忘れて置いてきちゃったみたい。ごめんね」

「??????」

 

夫はバツが悪そうに、少しだけしょんぼりしている。後片付けをちゃんとしなかったのを今になって気にしているらしいが、あいにくこちらはそんなこと気にもならないくらい、頭の中が疑問符でいっぱいだった。

 

やべえ、家族が何言ってるのか全然わかんねえ。

 

こちらの混乱にはお構いなしに、夫はもうこの話題は終わったとばかりにのんびりとコーヒー牛乳を飲んでいた。誤解されるといけないから一応、強調して伝えておきたいのだが、普段の夫は非常に良識的な人である。マイペースでいやにキャピキャピしたところはあるものの、話の受け答えもしっかりしている。むしろ一般的に言うと非常識な性格をしているのは私のほうで、一緒に暮らしていると本当に助けられることばかりだ。

 

それなのに、今のこの状況は何だ。何故こんなにも会話が成り立たない。サッポロポテトか。サッポロポテトのせいなのか。あの美味しさが、魔性のようにこの人を駆り立て、奇行に走らせたのか。

 

「いやあ、でも」

 

サッポロポテトの知られざる魔力におののき、打ち震えることしかできない私に、夫はのんびりと笑ってこう言った。

 

「トイレでサッポロポテトを食べるのって、なんか汚いねえ。もう二度としないと思うよ」

「当たり前だわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コメント
コメントする








    

calendar

S M T W T F S
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031 
<< January 2020 >>

twitter

ツイッター

主な生息地は@Twitterです。

selected entries

categories

archives

recommend

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM