イマジナリー松潤の教えてくれたカレーうどんが美味しかったのでやっぱり松潤はめちゃくちゃ良い奴

  • 2019.07.29 Monday
  • 00:36

鬼怒川あたりの温泉にでも行きたい、という話を夫としていたはずが、いつの間にか、温泉旅行で泊まった旅館に金田一少年が泊まりに来ていたら、という話になっていた。

 

絶対絶命である。連続殺人の幕開けだ。

 

生きて帰るのは二人ともすぐに諦めた。問題は、何番目の犠牲者となるかだ。君、真っ先に死にそうやんけと私は夫に言った。絶対、「こんなところにはいられない!」とか言って一人で部屋に引きこもって、翌朝死体で発見される。密室殺人の犠牲者だ。

 

「そういう奴は真っ先に死なない。二番目か三番目。真っ先に死ぬのは、旅館の女将さんに酔っ払いながらセクハラしてたのを金田一に咎められて、怒りながらうっかり十五年前に旅館で起きた事件について口走っちゃったオッサン」

「ああ〜」

 

めちゃくちゃ心の底からの「ああ〜」が出た。もはや何だか、さとうふみや絵のセクハラオッサンが赤ら顔で鼻の下を伸ばした姿すら克明に思い浮かぶ。決まりだ。こいつが第一の犠牲者だ。

 

「俺は三番目くらいの犠牲者で、旅行用のカメラで旅館の中の写真を撮ってるうちに、トリックの手掛かりになるようなものを撮影しちゃってそのせいで殺されちゃう役」

「なるほど……」

 

ならば、私は夫が遺したダイイングメッセージを必死で解いているうちに犯人へのヒントに気付いてしまい、そのせいで殺される役が良い。なかなか良い配役だと思ったのだが、夫は自信なさそうに首を横に振った。

 

「え、絶対むり……俺絶対そんなとっさにダイイングメッセージとか思いつかないし……」

「何でよ!ダイイングメッセージ解かせてよ!何のために普段あんなにゲームやってるの!あんなに時間かけてダンガンロンパV3をクリアしたのはこのときのためじゃなかったの!?」

 

このためではないと思う。そう言われたので、せやなと素直に頷いた。

 

このブログの記事を毎回読んでくださっている方はお気付きのことと思うが、我々は二人で会話していると無限に脱線していく傾向がある。もともと何を話していたかすら忘れて本題に戻って来れないときもあり、大いによろしくない。

 

最近、二人で京都に行ったときも脱線が酷かった。夫には私の仕事に付き合ってもらった形なのだが、せっかくなら観光もしたい、と京都に向かう途中でガイドブックを買うことになった。

 

最近は本当に便利だ。本屋に寄れなくても、電子書籍ですぐに本が買える。Kindleのストアを検索すると、とある女性誌のバックナンバーが夏の京都の飲食店を特集しているのを見つけた。しかも表紙が嵐の松潤だ。これは買いだろう。

 

「お! これにしよう、表紙が松潤だし」

「え、何で? 雑誌よりガイドブックのが良くない? それなら飲食店以外も載ってるし」

「えっ、でもこれ、表紙が松潤だよ?」

「えっ」

「えっ……?」

 

そのとき、私はようやく気がついた。夫は私と違って、別にそこまで松潤のことが好きではないことに。

 

というか、私はこのときこの瞬間まで、地球上の全人類は老いも若いも男も女も、すべからく松潤のことを好いているものだと思い込んで生きていた。だから、夫の松潤に対するうっすーい反応が衝撃的過ぎた。その思いを新幹線の中で全てぶつけた。だって松潤だぜ!? 

 

「絶対良い奴だぜ!? 会社に遅刻しそうなときでも横断歩道でおばあちゃんの背負ってる重い荷物とか運んでくれるぜ!?」

「会社……?」

「ホントに良い奴なんだって! 絶対! 君が高校生のとき、学校で誰も話せる人がいなくて机でラノベばっか読んでたけど、同じクラスの松潤だけは二人きりのとき気さくに話しかけてきてくれたじゃん!?」

「学校……?」

 

熱弁する私に、夫は戸惑いながらも静かに首を横に振った。

 

「でも……俺、松潤とは多分仲良くなれないよ……あいつ、話合わせてくれようとしてるのはわかるんだけどさ。『漫画好きなの? 俺もアニメとか見るよ!ジブリとかワンピースとか!』って言ってきたんだもん……マジで無理……」

 

いや君、昔からワンピース大好きやんけ。ジブリも金曜ロードショウでやるときめっちゃ楽しみに見とるやんけ。

 

そう突っ込もうとして、ハッと気が付いた。こいつ、なりきってやがる。根明でコミュ力高い人気者のイケメン同級生についていけなくて会話を拒否してしまう、友達のいない根暗オタクの高校生に完全になりきってやがる。

 

アラサー男性の役作りの的確さに慄くあまり、私は思わず名作『ガラスの仮面』を想起していた。このときの私はほぼほぼ、素人であるはずの北島マヤにまばゆいばかりの演技の才能を見出し、恐怖する姫川亜弓だった。

 

私は混乱した。紅天女候補を目指せば良いのか、松潤としてクラスメートと会話を楽しめば良いのか、完全にわからなくなっていた。しかし隣の北島マヤ(※アラサー男性)には一切の邪念無く、ただひたすらに根暗オタク高校生になりきってやろう、そういう真摯な凄みが感じられた。

 

負けられない。そう決意した。新幹線の中で我々二人の席にだけ、異様な緊張感が張り詰めていた。なお、この時点で京都の観光のことは、二人の頭から完全に抜け落ちていた。

 

 

 

 

そのあと普通に昼寝して、起きたらもう京都駅に着く三十分前だった。

 

京都で何をするかは白紙のままだった。「やべっ」と慌てて松潤が表紙の女性誌をKindleで買って、急ぎ熟読する。ランチがおすすめというカレーうどんの店が美味しそうだったので、とりあえずそこに行ってみることにした。(注 : 松潤おすすめのお店というわけではない)

 

混んでいたが、二十分ほど待って入れた。色々メニューがあるようだったが、それぞれ、オーソドックスなカレーうどんとカレーつけうどんを頼んだ。

 

これが両方とも、素晴らしく美味しかった。麺は胚芽入りでモチモチしている。鰹と豆乳、好きなほうの出汁を選べるキーマカレーが美味しい。セットで出てくる、西京みそ漬けの卵黄をのせた麦ご飯はそれ単品でも美味しいが、残ったカレーをかけるともうたまらない味となる。

 

我々は膨れた腹をさすりながら、口々に松潤を褒め称えた。

 

「さすが、松潤おすすめのお店(注 : 松潤おすすめのお店ではない)」

「なんか悪いことしちゃったな。こんな美味しいお店教えてくれるんなら、もっと話に乗ってやれば良かった」

「今度は自分から話しかけなよ」

「うん、そうする。ワンピースの映画誘うわ。二人で見に行く」

 

松潤はやっぱり良い奴だった。そう結論して満足する我々の脳裏で、「今度はこの店三人で来ようぜ!」と気さくに笑いかける、イマジナリー松潤の白い歯が輝いた。

 

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