百人一首アンソロジー企画「さくやこのはな」

  • 2017.04.01 Saturday
  • 23:19

提出作品「赤い雀を探しておくれ」

〇四八

風をいたみ岩打つ波のおのれのみ砕けてものを思ふ頃かな

 

 

 

 

 

 

 

 

赤い雀を探してほしいんだ。真っ赤な雀さ。憐れで可愛い、赤い雀だよ。

 

赤い雀は歌を忘れて、哀れにチイチイ鳴きながら、米を啄むことしかできないんだ。あわれだね。可哀想だね。これでも元は都を騒がす、当代随一の歌詠みだったんだ。

 

好い男だったよ、彼は。都の風を浴びてさ、大勢の従者を引き連れて、颯爽と肩を切って内裏の中を歩くんだ。みんなが見惚れたよ。彼が歌を詠めば、みんながため息をついた。彼は都の中心で、彼は、貴人だった。

 

その頃のことが忘れられないのかな。彼は今だに、夜な夜な内裏に現れる。哀れな雀に変じた今も、さ。恨めしいのかな。自分を追い落とした奴らのことが。悲しいのかな。遠方のみちのくの地に追いやられて、死ぬまで二度と都に戻れなかったことが。今ではただ、椀の中のわずかな米を、小さなくちばしでひと粒ずつ啄むことしかできないのにね。

 

――赤い雀を探しておくれよ。憐れで可愛い、赤い雀だよ。愛する人たちに裏切られて失意の底で死んでいった、可愛い可愛い赤い雀さ。

 

そんな男のことが忘れられなかった男がいてね。彼もまた、歌詠みだった。老いた男だったが、自分より若い溌剌とした貴人が、己と同じようにみちのくに流されてきたのを哀れと思い、何くれとなく面倒を見ていた。若くして貴人が不遇のまま儚くなったときには、孫が死んだかのようにおいおいと泣いた。彼らは同じような失意の中、魂で、歌で繋がった同胞だった。

 

不遇の貴人が死んだ翌朝、一面の雀の大群が都より遠方の空を覆った。そしてそれらは全て、一羽残らず都に向かって飛んでいった。老いた男はその様子を、呆然として見守った。男には直感があった。貴人の魂は不憫にも、若さ故か、恨みの故にか、迷ってしまったのだという直感が。

 

立ちすくむ老人の足元に、一羽の雀が舞い降りた。見ると、雀はその一羽だけ、燃えるように赤い体をしていた。雀は何か物言いたげな目で男を見て、悲しげにチイチイと鳴き、それから諦めたように空に向かって飛び去り、他の雀たちに紛れて見えなくなってしまった。

 

老いた男はそれから数年生きて、寂しげで不器用な歌をいくつかぽつぽつと詠み、そして二度と都を見ずに死んだ。

 

老人には海を臨む墓が立てられた。みちのくの荒海を臨む、質素な墓だ。波濤が大きく寄せては返す度に、波の飛沫が墓石を濡らした。

 

あるとき老人の墓石に、一羽の赤い雀がとまった。雀はじっと荒波を見つめていたが、やがてまた空に向かって飛び去っていったという。

 

それっきり、赤い雀の姿は誰も見ていない。

 

だから、ねえ、君。探してほしいんだ。一人ぽっちの赤い雀を。歌を忘れた悲しい雀さ。あいつどこかで、自分が何故迷っているのかも忘れて、まださ迷っているはずだから。

 

寄せては返す波を見つめながら、そいつを待っているやつがいるんだ。押し寄せては砕け散っていく波の飛沫の行く末を見つめながら、いつまでも寂しい歌を忘れられない、哀れな哀れな男が、さ。

 

 

 

 

 

 

 

百人一首アンソロジー企画「さくやこのはな」に提出

http://sakuyakonohana.nomaki.jp

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